大腸がん - 消化器内科、外科(一般)
大腸がんについて
粘膜から発生した大腸がんは深く浸潤していきます。その後、血液やリンパに乗ってリンパ節や、肺、肝臓へ転移したり腹腔内に散らばったりしていきます。そのため、がんになる前の腺腫の段階で発見し切除することが重要です。
大腸がんの疫学
大腸がんは男女ともに年々増加傾向で、2018年の大腸がんになる人の数(罹患数)は男女合計で1位、男性で1位、女性で乳がんに次いで2位です。死亡者数でも男女合計で2位と上位を占めています。35歳を過ぎると大腸がんの発生が増えるとされています。
当院における大腸がんの患者数
2020年度 入院患者数 64名
大腸がんの原因
運動不足や肥満症、喫煙や飲酒、食生活など生活習慣が大きく関係していると考えられています。特に赤肉や加工肉の過剰摂取、野菜や果物の摂取不足がリスク要因とされております。遺伝的素因によるものは多くはありません。
大腸がんの症状
初期には症状はありません。ある程度進行するとがんから出血するようになり、便に血が混ざる、排便時に出血が見られるといった症状がみられます。さらに進行すると便の通過障害が起こり、便秘・残便感・便が細くなる・下痢と便秘を繰り返すなどの症状が出てきます。腹痛やお腹の張りと共に貧血症状・体重減少・嘔気・嘔吐がみられることもあります。
大腸がん診断のための検査
便潜血検査
通常2日間便を採取します。最も簡便な検査の一つですが、早期の大腸がんやポリープは陽性とならないこともあります(早期がんでは6割程度の検出率)。2日間のうち1日でも陽性となった方は必ず2次検査(大腸カメラ)を受けてください。
大腸X線検査
肛門からバリウムと空気を注入しX線写真をとる検査で、がんの場所や形状を確認します。異常が認められると内視鏡検査などの精密検査が必要になります。
下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)
最も確実な検査で盲腸まで全大腸を内腔から観察し、がんの広がりや深さ(深達度:腫瘍がどれくらい深く浸潤しているか)などを評価します。拡大機構や画像強調が可能になり、範囲診断やがんか否かの診断に用いられます。がんが疑われる場合は組織を採取して、前がん病変である腺腫であればポリープ切除術を行い、顕微鏡の検査で病理診断を行います。
鎮静剤(眠り薬)を用いた検査をご希望の方は、予約時にお申し出ください。
腹部超音波検査・CT検査
腫瘍の場所や大きさ、深さ、転移の有無や周辺の臓器への広がりを調べるために行います。治療後の再発有無の検査としても使用されます。
当院の内視鏡件数
2020年度 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ) 1591件 2020年度 大腸ESD 41件
大腸がんの分類
大腸の壁は、内側の粘膜層から、粘膜下層、筋層、漿膜下組織、漿膜層まで5層構造をしています。大腸がんは粘膜層に発生し、次第に成長して大きくなります。深く成長し筋層より深く広がったものを進行大腸がんといい、粘膜下層を越えない浅いものを早期大腸がんといいます。このがんの深部方向への進展は深達度と呼ばれています。横方向への広がりは関係ありません。
がんが大きくなり広がることを浸潤といい、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って、離れた臓器でとどまってふえる転移や漿膜を越えて、おなかの中にがん細胞が散らばる腹膜播種が起こることがあります。
大腸がんの病期(ステージ)
大腸がんと診断されたら、必要な検査を行って病期を決定して内視鏡治療、手術治療、抗がん剤による化学療法などから最良の治療法を選択します。病期とは、がんの進行度を示す言葉でステージとも言います。
がんの深達度(T):大腸がんが大腸の壁のどの深さまで進んでいるかを表します。
リンパ節転移の数(N):リンパ節に転移した個数を表します。
遠隔転移(M):がんが他臓器へ転移しているかどうかを表します。
以下の表のように最終的にステージ0~IVc期に分類されます。
「大腸癌取扱い規約 第9版」より引用
大腸がんの治療
大腸がんの治療には、主に内視鏡的切除術、外科的切除術、化学療法などがあり、ガイドラインに基づいて患者さんの状態や病期(ステージ分類)にて検討します。 当院では消化器内科・外科・放射線科・病理診断科の合同で行うカンファレンスで提示され、治療方針を決めています。
内視鏡治療
ポリープや浅い小さいがんは内視鏡的ポリープ切除術や粘膜切除術(EMR)で切除し、大きな病変の場合は内視鏡的大腸粘膜下層剥離術(ESD)で治療します。通常EMRは2日間、ESDでは1週間程度の入院が必要ですが、患者さんの体への負担も少ない優れた方法です。
切除された検体は、病変の完全切除とリンパ節転移の可能性なしという2つの要素によりその根治性が判断されます。一括切除か否か、腫瘍径、組織型、深達度、水平・垂直断端陰性、脈管侵襲陰性、これら全てが基準を満たした場合を治癒切除としています。治療後も年1~2回の内視鏡検査で経過観察しています。
手術療法
開腹もしくは腹腔鏡を用いて大腸切除とリンパ節郭清を行います。肝転移がある場合は肝切除を行うこともあります。またがんが肛門に近い直腸にできたものでは人工肛門を造設する直腸切断術が必要となる場合があります。
リンパ節転移が著しい進行大腸がんや、再発の可能性が高いと考えられる症例では、手術の前後に抗がん剤治療(補助化学療法といいます)が行われることもあります。
化学療法(抗がん剤治療)
進行・再発がんに対する化学療法
他臓器に転移がある場合や、腹膜播種を起こしている場合、また再発大腸がんでは、がんに対する治療の中心は化学療法になります。 飲み薬や注射を用いてがん細胞を殺したり増殖を抑えたりして、手術で取れないがんを小さくします。現在のところ、抗がん剤だけでがんを完全に死滅させることは困難ですが、近年効果のある抗がん剤が続々と開発されています。 主な抗がん剤は、殺細胞薬・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬などがあり、保険適応されています。通常、効果と副作用を勘案して1種類もしくは2、3種類を組み合わせて投与します。効果がなくなれば他の種類の抗がん剤への変更を検討します。
術後補助化学療法
手術で完全にとりきれなかった少量のがん細胞を死滅させて再発を予防する治療です。 半年から1年の治療になることが多いです。
術前化学療法
手術で切除できると思われるがんでも、まず抗がん剤で小さくし、より確実な切除を目指して行う治療です。
放射線療法
進行がん、再発した大腸がんなどに対する補助的な治療として用いられます。転移をした臓器での症状緩和が主な目的です。
姑息治療
進行大腸がんによって腸閉塞を生じた場合、通過障害を改善させる目的でステント留置術を行うことがあります。
がんゲノム医療
ゲノムとはDNA上の遺伝情報のことで、がんの方のゲノム情報を調べて原因となる遺伝子を特定し、より効果が高く副作用の少ない治療薬を選択します。一人ひとりの患者さんに適した治療を行うことを「がんゲノム医療」といいます。当院は厚生労働省より「がんゲノム医療連携病院」に指定されており、がん遺伝子パネル検査を受けることができます。