食道がん - 消化器内科、外科(一般)このページを印刷する - 食道がん - 消化器内科、外科(一般)

食道がんについて

食道がんは欧米に多い疾患でしたが、近年食生活の変化、胃食道逆流症(GERD)の増加などにより日本でも増加が懸念されている疾患です。

食道がんの疫学

2018年厚生労働省の発表によると食道がんと診断された人の数(罹患数)は男性で約2万人、女性で4千人と男性に多い病気です。年齢としては50歳代から増加し始めます。治療を行って5年後に生存している人の率(5年相対生存率)は4割程度で決して高くありません。食道がんの数は多くはありませんが、治療は非常に厳しいがんであることが分かります。早期発見は非常に重要です。

当院における食道がんの患者数

2020年度 入院患者数 29名

食道がんの原因

喫煙と飲酒、そのほか食事などの環境的要因が大きく関わるとされます。飲酒によって生じるアセトアルデヒドは発がん性物質ですが、アセトアルデヒドの分解に関わる酵素の活性が生まれつき弱い人、少しのお酒で赤くなりやすい人は食道がんの発生率が高まると報告されています。また、喫煙と飲酒の両方を好む人はより危険性が高まります。また逆流性食道炎が起因となる食道腺癌も近年増加傾向にあります。

食道がんの症状

早期の状態では無症状なため、内視鏡検査などを行わないと診断はできません。進行すると食道が狭くなるので嚥下困難や胸部違和感、嘔吐などの症状がみられます。

食道がん診断のための検査

X線検査

バリウムを飲んで撮影する検査ですが、内視鏡検査に比べると早期がんの診断能力は劣ります。進行癌などでは、がんの広がりや深さ(深達度:腫瘍がどれくらい深く浸潤しているか)を診断するには有用です。

 

内視鏡検査(胃カメラ)

口や鼻から内視鏡を挿入してがんの広がりや深達度などを評価します。特殊光を用いた検査(NBI)や色素散布(ヨード染色・トルイジンブルー染色)を用いて範囲診断やがんか否かの診断を行います。また、内視鏡の先端に小型の超音波装置を取り付けた超音波内視鏡検査によってがんの深さや周囲リンパ節の診断が行われ、がんの広がりを判定します。さらには、がんの疑われる組織を採取して、顕微鏡の検査で病理診断を行います。
鎮静剤(眠り薬)を用いた検査をご希望の方は、予約時にお申し出ください。

 

腹部超音波検査・CT検査

腫瘍の場所や大きさ、深さ、転移の有無や周辺の臓器への広がりを調べるために行います。治療後の再発の有無の検査としても行われます。

当院の内視鏡件数

2020年度 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) 2774件
2020年度 食道ESD 11件

食道がんの分類

食道は喉と胃の間をつなぐ長さ25cmぐらいで断面2~3cm、壁の厚さ4mm程度の管状の臓器です。食道の壁は内から粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれています。食道がんは粘膜層に発生し、次第に成長して大きくなります。粘膜内にとどまるがんを早期がん、粘膜下層まで及んでいるものを表在がん、それより深い層まで及んでいるがんを進行がんといいます。横方向への広がりは治療方針に影響ありません。
がんが大きくなり広がることを浸潤といい、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って、離れた臓器でとどまって転移を起こすことがあります。

食道がんの病期(ステージ)

食道がんと診断されたら、必要な検査を行って病期を決定して内視鏡治療、手術治療、抗がん剤による化学療法などから最良の治療法を選択します。病期とは、がんの進行度を示す言葉でステージとも言います。

がんの深達度(T):食道がんが食道の壁のどの深さまで進んでいるかを表します。
リンパ節転移の数(N):リンパ節に転移した個数を表します。
遠隔転移(M):がんが他臓器へ転移しているかどうかを表します。

以下の表のように最終的にステージ0~IVb期に分類されます。

「食道癌取扱い規約 第11版」より引用

0が最も早期のがんで、IVbが最も進んだがんです。0期は食道が温存できる内視鏡的切除術が標準治療として推奨されます。I期では手術が標準治療とされ、II期・III期の標準治療はまず化学療法を行って手術します。Ⅳa期は化学放射線療法(放射線治療と化学療法の併用療法)が、Ⅳb期は化学療法が推奨されます。

食道がんの治療

食道がんの治療には、主に内視鏡的切除術、外科的切除術、化学療法、放射線療法などがあり、ガイドラインに基づいて患者さんの状態や病期(ステージ分類)にて検討します。 当院では消化器内科・外科・放射線科・病理診断科の合同で行うカンファレンスで提示され、治療方針を決めています。
がんの種類や進行度に応じて、さまざまな治療法を組み合わせることを「集学的治療」といいます。近年、食道がんでは、手術と化学療法、化学療法と放射線治療といった組み合わせによる集学的治療が多く行われています。

 

内視鏡治療

リンパ節などに転移のないと推定される、早期のがんが対象です。内視鏡を用いて粘膜面にできた浅いがんを取り除きます。ただし、内視鏡で切除した結果、深いところまでがんが広がっていることや血管・リンパ管にがん細胞が入り込んでいることが判明した場合には、外科手術を追加しなければならないこともあります。
当院では主にESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を行っています。従来のEMR(内視鏡的粘膜切除術)に比べて大きさにかかわらず一括切除が可能で、入院日数は約1週間です。患者さんの体への負担も少ない優れた方法です。
切除された検体は、局所の完全切除とリンパ節転移の可能性なしという2つの要素によりその根治性が評価されます。一括切除か否か、腫瘍径、組織型、深達度、水平・垂直断端陰性、脈管侵襲陰性、これら全てが基準を満たした場合を治癒切除としています。治療後も年1~2回の内視鏡検査で経過観察しています。

 

手術療法

基本的には食道の大半を切除し、胃を細長く管状にして食道の代わりとします。開胸開腹で行う方法と、鏡視下(胸腔鏡・腹腔鏡)手術があります。リンパ節転移が著しい進行したがんや、再発の可能性が高いと考えられる症例では、手術の前後に抗がん剤や放射線治療が行われることもあります。

 

放射線療法

主に進行がん、再発した食道がんなどに対する治療として用いられ、通常は連日がんに照射して小さくします。放射線単独でがんを死滅させることは困難ですが、食道や胃または喉頭(声帯)の機能を温存することが可能で、化学療法と同時に行うことでより効果が期待できます。

 

化学療法(抗がん剤治療)

進行・再発がんに対する化学療法

他臓器に転移がある場合や再発食道がんでは化学療法が行われます。飲み薬や注射を用いてがん細胞を殺したり増殖を抑えたりして、手術で取れないがんを小さくします。
主な抗がん剤には殺細胞薬・分子標的治療薬などがあり、保険適応されています。通常、効果と副作用を勘案して1種類もしくは2、3種類を組み合わせて投与します。効果がなくなれば他の種類の抗がん剤への変更を検討します。
近年免疫療法が食道がん治療分野でも注目されています。免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法は人間が本来持っている免疫機能を強化ないし回復させることで、がんの増殖を抑制する効果があります。

 

術前化学療法

手術で切除できると思われるがんでも、まず抗がん剤で小さくすることによって術後の再発を防ぐことが目的です。

 

術後補助化学療法

手術で完全にとりきれなかった少量のがん細胞を死滅させて再発を予防する治療です。

 

がんゲノム医療

ゲノムとはDNA上の遺伝情報のことで、がんの方のゲノム情報を調べて原因となる遺伝子を特定し、より効果が高く副作用の少ない治療薬を選択します。一人ひとりの患者さんに適した治療を行うことを「がんゲノム医療」といいます。当院は厚生労働省より「がんゲノム医療連携病院」に指定されており、がん遺伝子パネル検査を受けることができます。