肝がん - 消化器内科、外科(一般)このページを印刷する - 肝がん - 消化器内科、外科(一般)

肝がんについて

肝がんには肝臓から発生した原発性肝がんと他の臓器のがんが肝臓に転移した転移性肝がんに分けられます。一般に肝がんとは原発性肝がんのことをいいます。肝細胞がんが原発性肝がんの90%くらいを占め、肝炎ウイルスやアルコールなどが原因といわれます。残りには肝内胆管がん、胆管細胞がんなどがあります。
いずれも何らかの原因でがん細胞になって無秩序に増殖を繰り返します。検診などで見つけられる大きさになるまでには、何年もかかるといわれています。

肝がんの疫学

近年、男女ともに患者数は減少傾向ですが、2019年厚生労働省の部位別がん死亡率では男女合計で第5位を占めており、未だに年間死亡者数は約2万5千人を超えています。C型肝炎を原因とする肝細胞がんは年齢が高くなるほど多くなり、B型肝炎はC型に比べて若年での肝がん発症もみられます。地域的には西日本に多く東日本に少ない傾向があります。

当院における肝がんの患者数

2020年度 入院患者数 32名

肝がんの原因

肝細胞がんの原因のほとんどがC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスによるものですが、近年ウイルスに対する効果的な治療薬が開発されたことによって、C型肝炎やB型肝炎を原因とする肝細胞がんは減少傾向にあります。それに対してアルコール性肝疾患、脂肪肝などの非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を原因としたがんが増加傾向にあり注意が必要です。いずれにおいても肝細胞が炎症によって壊死と再生を繰り返し、遺伝子の異常が蓄積してがん化がおこると考えられており、壊死と再生が長く激しいほど肝臓は硬くなりやすく、肝硬変に進展している方ほど、肝細胞がんの発生率が高くなります。ただ肝硬変に至っていない肝臓にもがんが発生することはあります。

肝がんの症状

肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、がんがかなり大きくならないと自覚症状はみられません。進行してしまった場合には食欲不振や全身倦怠感、腹水・腹部膨満感、尿の濃染、黄疸、むくみなどがみられます。

肝がん診断のための検査

慢性肝炎では半年に一回、肝硬変では3ヶ月に一回の画像検査が好ましいと考えられています。


血液検査

一般的な肝機能の血液検査に加えて、ウイルス関連や腫瘍マーカーなどの血液検査を行います。


腹部超音波検査

簡便、非侵襲的で被爆することなく、スクリーニング検査としても行われます。がん以外にも慢性肝炎や肝硬変、脂肪肝の有無などがわかります。
造影検査はより肝がんの検出率を上げることができ、アレルギーや喘息、腎障害のある方でも実施可能です。


CT検査

X線を使った検査で、造影剤を使わないと腫瘍を検出できない場合があります。腎機能が悪い方や造影剤アレルギーがある方は造影剤は使用できませんのでお申し出ください。


MRI検査

CT検査よりは時間がかかりますが、X線を使用しない検査です。ただし体の内部に手術などで金属片が留置されている場合は検査できません。肝腫瘍の血流評価と肝細胞機能の評価が同時に可能です。腎機能が悪い方や造影剤アレルギーがある方は造影剤は使用できませんのでお申し出ください。


腫瘍生検

皮膚から肝臓に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で観察する検査です。通常の肝細胞がんは各種画像所見を組み合わせることでほぼ診断が可能ですが、画像検査で確定診断に至らない非典型的な腫瘍の場合に行います。入院が必要です。


当院の肝がん治療数

肝切除   開腹13例、腹腔鏡12例
局所凝固療法(RFA・MWA) 7例
肝動脈化学塞栓療法(TACE) 12例

肝がんの病期(ステージ)

肝細胞がんのステージは「がんの局所進展度」「リンパ節転移の有無」「遠隔転移(他の臓器への転移)の有無」によって分類されます。

がんの局所進展度(T):大きさや個数などについて以下の項目の合致数で決まります。
① 1個のみである
② 直径が2cm以下である
③ がんが血管に入り込んでいない

リンパ節転移の数(N):リンパ節に転移した個数を表します。
遠隔転移(M):がんが他臓器へ転移しているかどうかを表します。

以下の表のように最終的にステージI~IVA期に分類されます。Iが最も早期のがんで、IVBが最も進んだがんです。

「原発性肝癌取扱い規約 第6版」より引用

肝がんの治療

肝細胞がんができる肝臓は慢性肝炎や肝硬変であることが多いため、治療方針の決定にあたっては肝予備能(肝臓の機能がどの程度保たれているか)を十分考慮する必要があります。治療が成功しても肝臓の別の部位にあらたにがんができることが多いため、そのつど肝予備能以外にも年齢や持病などを踏まえて治療方針を決定しています。方針決定には消化器内科・外科・放射線科・病理診断科で合同で行うカンファレンスが行われます。


肝切除

確実な治癒が期待できますが、体や肝臓への負担が大きいため肝予備能が不良な場合は適用されません。


ラジオ波焼灼療法(RFA)

超音波やCTでがんを確認しながら、局所麻酔下に特殊な針を皮膚から刺し、先端から熱を発生させてがんを死滅させます。一般に小さく個数が少ない場合(3cm以下、3個以下)が適応で、手術に比べ低侵襲な点が長所です。場所によっては人工胸水や腹水の作成が必要になったり、治療対象とならないことがあります。


マイクロ波焼灼療法(WMA)

ラジオ波熱凝固療法(RFA)と同様に針を刺してマイクロ波で熱を発生させてがんを死滅させる治療法です。RFAに比べて少ない穿刺回数、短い焼灼時間で広範囲の治療が行えますが、針が太いことで適応が限られることが欠点です。


肝動脈化学塞栓療法(TACE)

侵襲が大きいため、肝予備能の不良な場合は適用されません。
主に右足の付け根の動脈を穿刺してカテーテルを肝動脈まで進め、がんへ化学療法剤などを注入、さらに粒子物質で血流を遮断する治療法です。1個の大きながんでも肝臓全体に複数個あるがんでも治療することもできますが、効果は外科的切除や焼灼療法に比べてやや不確実です。


全身化学療法

転移がある方や手術、局所焼灼療法(RFA・MWA)、肝動脈化学塞栓療法の適応のない進行例に対して施行されます。
副作用が重篤になりやすいので肝予備能が良好である必要があります。


肝移植

脳死肝移植はドナー不足の問題があり、多くは親族をドナーとして行われるます。
主に大学病院への紹介となります。


放射線療法

近年、陽子線や重粒子線治療が注目されていますが、まだ標準治療として確立するにいたっていません。