肺がん - 呼吸器内科
NHO岡山医療センターの肺がん診療
~患者さん一人ひとりに適した治療を提供するために~
当院は岡山県のがん診療連携拠点病院として、「質の高いがん医療」を提供しています。
呼吸器内科では、最新の医学的知見に基づき、患者さん一人ひとりの病状や希望に応じた適切な肺がん治療を行っています。
年間約150~200人の肺の悪性腫瘍(主に肺がん)の患者さんを新たに診療しており、呼吸器外科や放射線科をはじめ、多職種とも連携し、安心して治療を受けていただける体制を整えています。

初診から検査・治療に至るまでの流れ
肺がんでは、咳、痰、血痰、息切れ、声のかすれなどの症状がみられます。一方で、初期には症状がなく、健康診断の胸部X線検査で偶然見つかることも少なくありません。また、脳転移による頭痛や骨転移による痛みなどが、最初の症状となる場合もあります。
当院を受診される患者さんの多くは地域の医療機関からの紹介ですが、直接受診も可能です。気になる症状がある場合は、まずはお近くの医療機関へご相談いただくと、必要に応じて当院への紹介を含め、スムーズに診療を受けることができます。
初診では、CT検査や血液検査などを行い、肺がんが強く疑われる場合には、確定診断や病期判定のための詳しい検査を進めます。
以下に、当院での初診から検査・治療までの流れをご紹介します。

肺がんの組織診断
肺がんが疑われる場合は、がんが疑われる部分から組織や細胞を採取し、顕微鏡で詳しく調べて診断を確定します。
最も一般的な検査は気管支内視鏡(気管支鏡)検査です。口や鼻から細いカメラを気管支に挿入し、病変の一部を採取して調べます。
また、肺の周囲に胸水(きょうすい)がたまっている場合は、その胸水を採取し、がん細胞の有無を調べることで診断できることがあります。病変が体の表面に近い場合には、病変に細い針を刺して組織を採取する針生検を行うこともあります。
肺がんを正確に診断するためには、十分な量の組織や細胞を採取することが重要です。当院では、検査中に採取した細胞をその場で確認する迅速細胞診(Rapid On-Site Cytologic Evaluation:ROSE)を導入しています。これにより、必要な検体が十分に採取できているかを検査中に確認できるため、診断精度の向上や再検査の必要性を減らすことにつながります。

肺がんの分類
肺がんは、顕微鏡で調べた細胞の特徴によって、大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」の2種類に分けられます。
非小細胞肺がんは肺がんの約80~85%を占め、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分類されます。このうち最も多いのが腺がんで、肺がん全体の約60%を占めます。次いで扁平上皮がんが多くみられます。
一方、小細胞肺がんは肺がん全体の約15~20%を占めます。進行や転移が比較的速い特徴がありますが、薬物療法や放射線治療が効果を示しやすいことが知られています。

肺がんの病期(ステージ)と治療法
肺がんと診断された後は、がんの大きさやリンパ節への広がり、他の臓器への転移の有無などを詳しく調べ、病期(ステージ)を決定します。
治療法は、病期だけでなく、患者さんの持病や心臓・肺などの臓器機能、体力、年齢などを総合的に評価したうえで、患者さんご本人の希望を大切にしながら、十分に相談して決定します。
非小細胞肺がんでは、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など)を、病状に応じて単独または組み合わせて行います。
Ⅰ期・Ⅱ期:手術でがんを切除できる場合は、手術が基本となります。
Ⅲ期:手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた集学的治療を行います。
Ⅳ期:がんが他の臓器へ転移しているため、主に薬物療法を中心に治療を行います。
小細胞肺がんは、進行や転移が速い一方で、抗がん剤や放射線治療が比較的よく効くという特徴があります。そのため、多くの場合は薬物療法を中心に治療を行い、病状に応じて放射線治療を組み合わせます。特に、限局型(胸腔内にがんが留まっている状態)場合には、薬物療法と放射線治療を組み合わせることで、治癒を目指した治療を行うこともあります。
岡山医療センター呼吸器内科では、約100名の肺がん患者さんに対して、内科的な治療(がん薬物療法や放射線療法)をおこなっています。

薬物療法(抗がん剤治療)
薬物療法は、抗がん剤などの薬を用いてがん細胞の増殖を抑える治療です。全身に作用するため、肺だけでなく、体内に広がったがんにも効果が期待できます。
非小細胞肺がんでは、病期(ステージ)に応じて、手術や放射線治療と組み合わせて行う場合と、薬物療法を単独で行う場合があります。
小細胞肺がんは、診断時にすでに転移していることが少なくありません。しかし、薬物療法が比較的よく効くことが知られているため、多くの場合は薬物療法が治療の中心となります。
分子標的治療
肺がんの中には、がん細胞が増殖する原因となる遺伝子の異常(ドライバー遺伝子異常)をもつものがあります。このような遺伝子異常を調べることで、一人ひとりの患者さんに適した治療を選択できるようになっています。
代表的なものにEGFR遺伝子変異があります。EGFRは細胞の増殖を調節する役割をもっていますが、この遺伝子に異常があると、細胞が必要以上に増え続け、がんの発生や進行につながります。

分子標的治療は、このようながん細胞に特有の異常を標的として、その働きを抑える治療法です。正常な細胞への影響をできるだけ抑えながら、高い治療効果が期待できる場合があります。
当院では、気管支鏡検査などで採取した組織を用いて、EGFRをはじめとするさまざまな遺伝子異常を調べています。その結果をもとに、一人ひとりの患者さんに最も適した治療法をご提案します。



免疫チェックポイント阻害薬による治療
私たちの体には、免疫細胞ががん細胞を見つけて攻撃する仕組みがあります。しかし、がん細胞はPD-L1という分子を利用して免疫細胞に「攻撃しないように」という信号を送り、免疫の働きから逃れることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキの働きを解除し、本来の免疫力を回復させる治療です。免疫細胞が再びがん細胞を認識し、攻撃できるようになることが期待されます。
この治療の効果は、がん細胞に発現しているPD-L1というタンパク質の量と関係することがあります。そのため、治療を始める前に、採取した組織を用いてPD-L1免疫染色という検査を行い、治療の適応を判断します。


小細胞肺がんに対する二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体薬
近年、小細胞肺がんに対する新しい治療薬として、二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体薬が使用できるようになりました。
2024年12月に承認されたタルラタマブ(イムデトラ®)は、小細胞肺がんの細胞に多くみられるDLL3と、免疫細胞(T細胞)のCD3の両方に結合することで、T細胞をがん細胞へ誘導し、攻撃を促す新しいタイプの薬です。
主に、これまでに薬物療法を受けた後に病状が進行した患者さんが対象となります。
一方で、この薬にはサイトカイン放出症候群(CRS)などの特徴的な副作用が起こることがあり、まれに重症化することもあります。そのため、当院では患者さんの状態を慎重に観察しながら、安全に治療を行っています。

