肺がん - 呼吸器外科このページを印刷する - 肺がん - 呼吸器外科

外科の立場から

肺がんと診断された場合、治療が必要になってくるのですが、その方法は手術、放射線、化学療法(抗がん剤)などが挙がります。その適応を決めるために次にすることは、その肺がんがどこまで拡がっているのかを画像で評価します。まだ手術で取り切れる範囲内に留まっていると予想されれば手術が考慮されます。手術は身体にメスを入れるためそれなりな危険を伴う訳ですが、良い点は、がんを完全に切り取れる可能性があることです。
肺がんの拡がりは下の表に示すTNM分類に沿って評価しています。前述のTとNとMの3つの因子の組み合わせにより病期が決定します。画像で予想される癌の拡がり(臨床病期)はIA~IV期まであります。IA期は肺がんが小さく、がんがそこに留まっている可能性が高いもの、IV期はがん細胞がもとの肺がんの場所から離れて骨、脳など遠くの臓器に付着(遠隔転移)した状態です。手術でがんが取り切れる可能性があるのはIIIBまでで一般的にはIIBまでが手術の適応と考えられています。

TNM臨床病期分類(予想される癌の拡がり)と治療選択

T(癌の大きさ) is 1mi 1a 1b 1c 2a 2b 3 4
N(癌細胞がリンパ液に乗ってリンパ節に転移している) 0 1 2 3 4
M(癌細胞が血液に乗って他臓器に転移している) 0 1a 1b 1c

<肺癌取扱い規約 第8版>

診療科 手術 術後補助化学療法 放射線療法 放射線療法
臨床病期 IA1    
IA2    
IA3  
IB  
IIA  
IIB  
IIIA (○) (○)
IIIB (○) (○)
IV      

<日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン 2016年版>

手術はがんを取りきることを目標にしているためできるだけがんを含め多くの周囲組織を取ることで、がんの取り残しを減らすことができます。しかし不必要な拡大切除は残存肺機能を落とすことになるためバランスが必要となります。肺は解剖的には右は3つの袋(それぞれ葉っぱのような形をしているため上葉、中葉、下葉と呼ばれる)、左は2つの袋(上葉と下葉)に分かれています。肺癌が袋(肺葉)の中に収まっていると考えられるなら袋の単位で切除し、がん細胞が拡がっていくルートである周囲のリンパ節も切除(郭清)することが一般的にバランスのとれた術式と考えられています。もちろんがんの悪性度、拡がり、肺の機能によっては術式が変わりますが肺葉切除+リンパ節郭清術ががんの標準術式として認識されています。
肺の手術は難易度の高い手術といわれており以下のような合併症が報告されています。

術式別死亡率

原発性肺癌 (%) 術後30日死亡率(%) 院内死亡率(%)
部分切除術 14.3 0.1 0.4
区域切除術 10.9 0.05 0.3
肺葉切除術 72.4 0.3 0.7
(スリーブ肺葉切除術) 1.2 1.1 2.1
肺全摘術 1.4 1.5 3.8
その他 1    
100    

手術関連死亡原因

  (%)
間質性肺炎 0.20
細菌性肺炎 0.12
呼吸不全 0.11
心血管系 0.06
気管支断端瘻 0.04
脳梗塞、脳出血 0.04
肺血栓塞栓症 0.02
その他  
0.90

<日本胸部外科学会全国集計(2014) 原発性肺癌手術症例 n=38,085>

術後合併症

  (%)
不整脈 3.6
肺炎 1.9
肺瘻 >2週間 1.5
創感染 1.1
乳び胸 0.8
膿胸 0.6
間質性肺炎の増悪 0.6
人工呼吸器使用 >3日間 0.5
気管支断端瘻 0.4
出血 >500ml 0.3
脳梗塞、脳出血 0.2
肺血栓塞栓症 0.2
心筋梗塞 0.1
その他 1.6
13.4

<日本胸部外科学会全国集計(2008) 原発性肺癌手術症例 n=27,881>

手術に伴う合併症の頻度は、患者さんの背景に大きく左右されます。喫煙者、低肺機能(肺気腫、間質性肺炎など)、脳心血管系の疾患、糖尿病などを合併している方は通常より合併症が多くなる可能性があります。
肺葉切除+リンパ節郭清術を行う場合、当院では手術の1日前に入院してもらっています。手術は全身麻酔に硬膜外麻酔を併用し手術時間は3時間前後、出血量は20ml前後となります。術翌日から食事開始し術後3日目には身体にはほとんど何もついていない状態にもっていきます。術後疼痛なども考慮し術後7日前後の退院としています。術後5年間は定期診察、必要により加療していきます。
手術で完全に治る可能性は病期によります。臨床病期が進むにつれて画像では確認できないレベルのがん細胞がリンパ液、血液に乗って広範囲に広がっている可能性が高くなるからです。その際は術後もがん細胞が体に残った状態となります。進行した病期では術後に化学療法(術後補助化学療法)を追加することにより体に残ったがん細胞をある程度抑えることができます。
臨床病期がIII期においては化学療法と放射線療法を行った後に手術を行う集学的治療を試みることがあります。この治療は適応ある患者さんを選択することが大切であり呼吸器科、放射線科との合同カンファレンスにより治療方針を決めることになります。
手術をしないことは治る機会を失うことにもつながります。その意味では臨床病期診断、手術に耐える体力があるかどうかの判断が重要となります。当呼吸器外科では手術で治る患者さんを一人でも増やすべく努力を続けています。

当院、当科の特徴

1. 術前の説明には時間をかけて説明します。

2. 当科で手術を受ける場合、当院病棟最上階である10階の呼吸器専門病棟に入院となります。呼吸器系に専門性の高い医療・看護を安心して受けられると思います。また患者さん同士のコミュニケーションも取りやすい環境ですので話し相手はすぐ見つかると思います。景色も良いです。高い位置から朝日に照らされる山々、高速道路を走る車、備前富士(勝手に命名)などを眺めるのも気分転換になるかもしれません。

3. 手術は1に安全、2に根治性(癌を取りきる)、3に術後の痛み軽減・創部の綺麗さ、にこだわっています。以前から手術の多くを胸腔鏡下に行っています。1 、2を担保しつつ3にも貢献できています。

4. 手術器具は年々進化しており、より安全になっています。さらに身体への負担を少なくする試みもありますが、当院の役割としては実績ある手技の技術を限りなく高めて患者さんに提供するスタンスです。

5. 呼吸器外科専属スタッフは二人ですが、安定した医療を提供できていると思います。

6. 肺がんの治療は長期にわたることが多いため、患者さんに対しては呼吸器外科以外に呼吸器科、放射線科、看護師、薬剤師など多くのスタッフが関与します。スタッフ全員で患者さんを支えますので安心して当院を選択していただけたらと思います。