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胃がんについて

胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になって無秩序に増殖を繰り返しておこる病気です。検診などで見つけられる大きさになるまでには、何年もかかるといわれています。

胃がんの疫学

胃がんはかつて日本人のがん死亡率の第1位でしたが近年減少しており、2019年厚生労働省の部位別がん死亡率では男性では肺がんを下回り第2位、女性で第3位です。しかし胃がんになる人の数(罹患数)は、人口高齢化の影響で非常に増えており、2018年に診断された人は男性で約9万人、女性で約4万人います。つまり胃がんになる人は増加していますが、完治する人が多いため死亡する人はあまり変わっていません。我が国の胃がん数が減っているのは早期発見・早期治療の進歩が著しいためと考えられます。

当科における胃がんの患者数

2020年度 入院患者数 187名

胃がんの原因

ピロリ菌による感染、食生活、喫煙などが影響していると考えられていますが、原因が全て解明されているわけではありません。
1週間の内服治療によるピロリ菌の除菌で胃がんの発生率を抑えることができるとされています。

胃がんの症状

早期がんはほとんど症状がなく、検診などでみつかることが多いです。進行すると、腹痛・腹部の膨満感・嘔吐・吐き気・胸やけ・黒色便・吐血・貧血などの症状がみられますが、全く症状が無い場合もあります。

胃がん診断のための検査

胃X線検査

バリウムと発泡剤を飲み、胃の形状や粘膜の状態をみます。異常が認められれば内視鏡検査などの精密検査が必要になります。

 

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

口や鼻から内視鏡を挿入して食道から胃、十二指腸と観察し、がんの広がりや深さ(深達度:腫瘍がどれくらい深く浸潤しているか)などを評価します。拡大機構や画像強調を駆使することで範囲診断やがんか否かの診断を行います。また、内視鏡の先端に小型の超音波装置を取り付けた超音波内視鏡検査によってがんの深さや周囲リンパ節を観察して、がんの広がりを判定します。さらには、がんの疑われる組織を採取して、顕微鏡の検査で病理診断を行います。
鎮静剤(眠り薬)を用いた検査をご希望の方は、予約時にお申し出ください。

 

腹部超音波検査・CT検査

腫瘍の場所や大きさ、深さ、転移の有無や周辺の臓器への広がりを調べるために行います。治療後の再発の有無の検査としても行われます

当院の内視鏡件数

2020年度 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) 2774件
2020年度 胃ESD  72件

胃がんの分類

胃の壁は、内側の粘膜層から粘膜下層、筋層、漿膜下組織、漿膜層まで5層構造をしています。胃がんは粘膜層に発生し、次第に成長して大きくなります。深く成長し筋層より深く広がったものを進行胃がんといい、深達度が粘膜下層を越えない浅いものを早期胃がんといいます。横方向への広がりは治療方針に影響ありません。
がんが大きくなり広がることを浸潤といい、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って離れた臓器でとどまってふえる転移、漿膜を越えておなかの中にがん細胞が散らばる腹膜播種が起こることがあります。
胃がんの中には、胃の壁を硬く厚くさせながら広がっていくタイプがあり、これをスキルス胃がんといいます。早期のスキルス胃がんは内視鏡検査で見つけることが難しいことから、症状があらわれて見つかったときには進行していることが多く治りにくいがんです。

胃がんの病期(ステージ)

胃がんと診断されたら、必要な検査を行って病期を決定して内視鏡治療、手術治療、抗がん剤による化学療法などから最良の治療法を選択します。病期とは、がんの進行度を示す言葉でステージとも言います。

がんの深達度(T):胃がんが胃の壁のどの深さまで進んでいるかを表します。
リンパ節転移の数(N):リンパ節に転移した個数を表します。
遠隔転移(M):がんが他臓器へ転移しているかどうかを表します。

以下の表のように最終的にステージIA~IV期に分類されます。

「胃癌取扱い規約 第15版」より引用

IAが最も早期のがんで、IVが最も進んだがんです。IA期は内視鏡治療や腹腔鏡下手術などの低侵襲の治療が可能になります。IIIA、IIIB期は進行しているものの手術によって治る可能性のある病期です。手術後あるいは手術前の化学療法を追加することによって再発を防ぎます。IV期はがんが進行して転移している状態で、手術のみでの治療は困難なため化学療法を中心に治療を行います。

胃がんの治療

胃がんの治療には、主に内視鏡的切除術、外科的切除術、化学療法などがあり、ガイドラインに基づいて患者さんの状態や病期(ステージ分類)にて検討します。
当院では消化器内科・外科・放射線科・病理診断科の合同で行うカンファレンスで提示され、治療方針を決めています。

 

内視鏡治療

転移のないと推定される早期のがんが対象です。内視鏡を用いて粘膜面にできた浅いがんを取り除きます。ただし、内視鏡で切除した結果、深いところまでがんが広がっていることや血管・リンパ管にがん細胞が入り込んでいることが判明した場合には、後日開腹手術をしなければならないこともあります。
内視鏡切治療には大きく2つの方法があります。EMR(内視鏡的粘膜切除術)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)です。従来はEMRが行われていましたが、大きな病変だと分割切除になり遺残・再発の危険性があるという問題点がありました。その後ESDが開発され、その進歩により現在では大きさ・周在性にかかわらず一括切除可能となりました。当院で行う内視鏡治療は主にESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で、入院日数は約1週間です。患者さんの体への負担も少ない優れた方法です。
切除された検体は、病変の完全切除とリンパ節転移の可能性なしという2つの要素によりその根治性が判断されます。一括切除か否か、腫瘍径、組織型、深達度、水平・垂直断端陰性、脈管侵襲陰性、これら全てが基準を満たした場合を治癒切除としています。治療後も年1~2回の内視鏡検査で経過観察しています。

 

手術療法

標準的には胃切除とリンパ節郭清を行います(定型手術)。早期胃がんは腹腔鏡下手術を行い、がんが広い場合には大きく開腹して胃と周囲臓器を含む広い範囲を切除することもあります(拡大手術)。
リンパ節転移が著しい進行胃がんや、再発の可能性が高いと考えられる症例では、手術の前後に抗がん剤治療(補助化学療法といいます)が行われることもあります。

 

化学療法(抗がん剤治療)

標準的には胃切除とリンパ節郭清を行います(定型手術)。早期胃がんは腹腔鏡下手術を行い、がんが広い場合には大きく開腹して胃と周囲臓器を含む広い範囲を切除することもあります(拡大手術)。
リンパ節転移が著しい進行胃がんや、再発の可能性が高いと考えられる症例では、手術の前後に抗がん剤治療(補助化学療法といいます)が行われることもあります。

 

進行・再発がんに対する化学療法

他臓器に転移がある場合や、腹膜播種を起こしている場合、また再発胃がんでは、がんに対する治療の中心は化学療法になります。
飲み薬や注射を用いてがん細胞を殺したり増殖を抑えたりして、手術で取れないがんを小さくします。現在のところ、抗がん剤だけでがんを完全に死滅させることは困難ですが、近年効果のある抗がん剤が続々と開発されています。
主な抗がん剤は、殺細胞薬・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬などがあり、保険適応されています。通常、効果と副作用を勘案して1種類もしくは2、3種類を組み合わせて投与します。効果がなくなれば他の種類の抗がん剤への変更を検討します。

 

術後補助化学療法

手術で完全にとりきれなかった少量のがん細胞を死滅させて再発を予防する治療です。 半年から1年の治療になることが多いです。

 

術前化学療法

手術で切除できると思われるがんでも、まず抗がん剤で小さくし、より確実な切除を目指して行う治療です。

 

放射線療法

進行がん、再発した胃がんなどに対する補助的な治療として用いられます。転移をした臓器での症状緩和が主な目的です。