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岡山医療センター皮膚科での皮膚がん診療への取り組み

紫外線量の増加や高齢化などのため皮膚がんの患者さんが増えてきていることはご存じなのではないかと思います。皮膚がんのうち基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫(メラノーマ)などは紫外線が発症誘因となりやすい皮膚がんの代表です。
しかし実際には皮膚がんにも数多くの種類があり、誘因や悪性度もさまざまです。さらにその進行度によっても予後は大きく変わってきます。
当院皮膚科では皮膚悪性腫瘍の専門医を中心に、皮膚腫瘍の診断と治療に力を入れて診療を行っています。正確に診断して進行度を把握したうえ、ひとりひとりの患者さんに適切な治療(手術、放射線治療、抗腫瘍剤による治療、など)を選択するようこころがけています。

皮膚悪性腫瘍患者の年齢分布

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代表的皮膚がんについて

①悪性黒色腫(メラノーマ)

表皮に存在してメラニン色素を産生する色素細胞(メラノサイト)が悪性化してできる皮膚がんです。俗に“ホクロのガン”とも呼ばれ、大多数がホクロのように黒っぽい色調を呈します。紫外線も発症誘因となりますが、日本人の場合には手足に発症する頻度が高いのが特徴です。
皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、進行するとリンパ節転移や遠隔(他臓器)転移を生じて予後が悪くなります。他の皮膚がんもそうですが、早期発見が重要となります。
早期では外科的治療が中心となりますが、進行期には放射線治療や抗腫瘍薬による治療が行われます。従来はいわゆる抗がん剤が効きにくい腫瘍の代表でしたが、近年では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の開発が進み、治療効果が上がってきています。

図:悪性黒色腫(左:足趾の早期病変、中:足底の進行期病変、右:体幹の進行期病変)
悪性黒色腫患者の年齢分布
  • 悪性黒色腫(メラノーマ)の診断および検査法
  • 悪性黒色腫(メラノーマ)の治療法

②有棘細胞癌

紫外線、(やけどなどの)瘢痕、放射線皮膚障害、などさまざまな原因で発症しますが、紫外線による細胞障害が原因となっているものが大多数を占めます。紫外線障害による早期病変(上皮内がん)が日光角化症です。紫外線とは関連ありませんがボーエン病も有棘細胞癌の早期病変(上皮内がん)の一種です。日光角化症やボーエン病などの早期病変(上皮内がん)は角化(皮膚の表面がガサガサと固くなることを意味します)を伴う紅色ないし褐色の斑として生じ、湿疹やシミとよく似ています。
進行してくると盛り上がってきて(隆起)、カサブタがついたり(痂皮化)、ただれてきたり(潰瘍化)します。進行期になるとリンパ節転移を生じ、さらに進行すると遠隔(他臓器)転移を生じて予後不良となります。
早期では外科的治療が中心となりますが、進行期には放射線治療、抗腫瘍剤による治療などを組み合わせた集学的治療が必要となります。
紫外線対策などの予防と早期発見が重要です。

左図:日光角化症(上皮内有棘細胞癌)。右図:有棘細胞癌
有棘細胞癌の年齢分布
日光角化症患者の年齢分布・ボーエン病患者の年齢分布
  • 有棘細胞癌の診断および検査法
  • 有棘細胞癌の治療法

③基底細胞癌

最も発生頻度の高い皮膚がんです。日本人の場合は大多数が黒色調を呈し、“ホクロとよく似た皮膚がん”の一つです。高齢の方の顔面、特にまぶたや鼻の周囲にできやすいのも特徴です。体質的な素因に加えて紫外線などが発症誘因となります。
通常は発症した部位に限局して増殖し、リンパ節や内臓に転移することはきわめてまれです。従って腫瘍部の外科的切除が治療の中心となります。ただ、顔面の正中部に生じやすいため、適切な切除範囲の設定と切除後の再建方法に注意を要します。
進行例や手術の適応が難しい患者さんでは放射線療法など手術以外の治療を選択する場合もあります。

図:基底細胞癌の所見(左:鼻翼部臨床像、中:そのダーモスコピー所見、右:下眼瞼)
基底細胞癌患者の年齢分布
  • 基底細胞癌の診断および検査法
  • 基底細胞癌の治療法

④乳房外パジェット病

比較的高齢の方の外陰部に発症しやすい皮膚がんです。乳癌の一型にパジェット病と呼ばれるものがあり、皮膚所見がよく似ているためにこの名前がついています。
比較的まれな皮膚がんですが、湿疹とよく似ているため注意が必要です。赤ないし茶色、あるいは色が抜けたような平坦な病変として発症し(紅斑、褐色斑、脱色素斑)、進行するとただれてきたり(びらん形成)、盛り上がってきたり(隆起性病変)します。
上皮内がん(早期がん)の状態でみつかることが多いのですが、いったん進行がんとなると急速にリンパ節転移を生じます。
早期に診断して外科的に切除することが大切で、所属リンパ節転移の有無を調べる必要もあります。進行例には抗腫瘍剤による治療も適応となります。

図:乳房外パジェット病:紅斑と脱色素斑
乳房外パジェット病患者の年齢分布
  • 乳房外パジェット病の診断および検査法
  • 乳房外パジェット病の治療法

⑤その他の皮膚悪性腫瘍

上記の代表的な皮膚がん以外にも、皮膚を構成する種々の細胞に分化する悪性腫瘍が存在します。付属器癌(汗腺癌、脂腺癌、毛包癌、等)、メルケル細胞癌、皮膚軟部組織肉腫(血管肉腫、隆起性皮膚線維肉腫、等)、皮膚リンパ腫、などです。いずれも比較的まれな悪性腫瘍であるため、正確な診断と適切な治療には専門的知識が必要になってきます。

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皮膚がんの検査および診断法

①視診

詳しく問診をしたうえで、まず視診で皮膚がんが疑われるかどうか判断します。

②ダーモスコピーによる診断

特殊な拡大レンズを用いて皮膚の浅層までを透過しつつ病変を拡大し、腫瘍病変を観察します。ダーモスコピーを用いると肉眼では捉えられない所見を観察することができるため、皮膚腫瘍の診療には欠かせません。特に悪性黒色腫、基底細胞癌、などの色素を有する腫瘍では必須の検査ですが、それ以外の腫瘍でも非常に有用な情報を提供してくれます。

図:ダーモスコピーによる診察。良性のホクロ(左)。悪性黒色腫(ホクロの癌、右)

③病理組織診断

皮膚から組織を採取(皮膚生検)し、病理組織診断を行います。診断確定のうえで最も重要な検査であり、病理診断医の協力のもとで十分な検討を行います。
皮膚の場合、組織採取は通常局所麻酔下に組織を採取します。

図:皮膚病理組織検査、基底細胞癌の臨床所見(左)、組織所見(右)

④画像診断

  • 超音波検査:腫瘍の深達度、リンパ節転移、などの診察に用います。
  • CT検査:進行癌ではリンパ節腫脹の有無、他臓器転移の有無を調べます。
  • MRI検査:皮膚原発病変における進行度の把握、脳転移の検索などに用います。
  • PET/CT:がんに取り込まれやすい物質の集積を見る核医学検査で、転移病変などの検出感度がよいのが特徴です。

⑤センチネルリンパ節生検

転移を生じやすいリンパ節のみを切除し、リンパ節転移の有無を詳細に組織診断します。
患者さんへの侵襲が高いリンパ節郭清術(所属リンパ節を周囲組織と一塊に取り除く手術)は、転移が確認された患者さんに対してのみ施行します。
悪性黒色腫に対して保険適用となっており、当院はその施設基準を満たしています。

図1:悪性黒色腫のセンチネルリンパ節生検。右母指原発巣(左)、リンパシンチグラフィ(中)、リンパ節への微少転移(右)

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皮膚がんの治療

正確に診断したうえで、皮膚がんの種類、進行度、患者さんの状態に応じた治療を選択し、できるだけ過不足のない治療を心がけます。

早期がんの治療

種々の選択肢があり、がんの種類、臨床所見や病変範囲、組織所見によって治療法を使い分けます。

①外科的切除

より確実な治療法です。

②凍結療法

浅在性の病変では液体窒素による凍結療法が有効です。冷凍凝固することにより痂皮化し、腫瘍病変を脱落させます。早期の日光角化症などがよい適応となります。

③軟膏による治療

がんの種類によっては抗がん剤含有軟膏が有効です。
上皮内(早期)有棘細胞癌の一種である日光角化症に対しては、抗腫瘍免疫賦活作用を有するイミキモドという薬物の塗布が有効で保険適用となっています。

進行がんの治療

①外科的治療

手術で切除することが皮膚がん治療の中心的役割をなします。その適応や切除範囲はがんの種類や進行度により若干異なります。リンパ節転移がある場合には、リンパ節をしっかり取り除くような手術(リンパ節郭清術)も行われます。

②放射線療法

単独で行う場合や、進行例に対して手術や抗がん剤と組み合わせて照射する場合があります。がんの種類によっては第1選択の治療となることもあります。

③抗がん剤

転移を生じた患者さんを中心に適応されます。
がんの種類により使う薬剤や効果はさまざまです。放射線療法と併用する場合もあります。

④分子標的薬

がんの増殖にかかわる分子を阻害する薬剤が開発されてきています。
遺伝子変異のある根治切除不能な悪性黒色腫に対して保険適用となっています。

⑤免疫チェックポイント阻害薬

がんに対する免疫反応(抗腫瘍免疫)を誘導しやすくする薬です。
分子標的薬と同様に根治切除不能な悪性黒色腫に対して保険適用となっており、一定の効果が得られるようになってきています。

当院での診療実績(2009年度-2021年度)

皮膚悪性腫瘍患者数2009-2020
皮膚悪性腫瘍患者の内訳2009-2020
皮膚悪性腫瘍患者の男女比2009-2020
皮膚悪性腫瘍手術件数2009-2020
皮膚悪性腫瘍入院件数2009-2020

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診療スタッフ

浅越 健治(あさごえ けんじ) 皮膚科医長
皮膚科専門医
皮膚悪性腫瘍指導専門医
日本皮膚悪性腫瘍学会評議員
日本皮膚外科学会評議員
芦田 日美野(あしだ ひみの) 皮膚科医師
石井 芙美(いしい ふみ) 専攻医
水田 康生(みずた やすき) 専攻医