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膀胱と膀胱がんについて

膀胱は腎臓で作られた尿を一時的に貯めておくタンクのような役割をもつ臓器です。内側は尿路上皮という細胞でおおわれています。膀胱がんのほとんどは、この尿路上皮ががん化したものです。
膀胱がんは60歳以上に増加し始める傾向にあり、男性に多いと言われています。発生の危険要因としては喫煙が明らかになっています。
膀胱がんは大きく分けると、①表在性膀胱がん②浸潤性膀胱がん③上皮内がんの3つのタイプに分けられます。それぞれ性格がかなり異なっており、治療法も違います。

 

①表在性膀胱がん

膀胱表面の粘膜にとどまっており、膀胱の筋肉の層には広がっていない根の浅いがんのことを表在性膀胱がんといいます。イソギンチャクのような形をしていることが多く、膀胱の内側の空洞に向かって隆起します。転移することはあまりなく、膀胱がんの多くはこのタイプです。

 

②浸潤性膀胱がん

膀胱の筋肉の層まで広がった膀胱がんを浸潤性膀胱がんといいます。がんの見た目は様々ですが、根が深く、膀胱に留まらず外側に広がることや、転移を起こすことがあるがんです。

 

③上皮内がん

上皮内がんは粘膜の下を這うように悪性度の高いがんが拡がっていく特徴があります。膀胱がんではない他の臓器にできる上皮内がんは早期のがんに分類されることもありますが、膀胱の場合は悪性度が高く、しっかり治療しなければならないがんです。
膀胱がんの最初の症状としていちばん多くみられるのは、便器が赤く染まるような肉眼でもわかる血尿です。血尿は出たりおさまったりすることもあります。上皮内がんの場合には排尿時に痛みを感じたり、下腹部に痛みが起きたりするこることもあります。膀胱炎とも似た症状ですが、膀胱がん場合は抗生物質を飲んでも治りません。がんが広がってしまい、尿の通り道をふさいでしまう場合には、尿の流れが滞り、腎が腫れるために腰のあたりに鈍い痛みが出ることもあります。

 

検査

血尿などをきっかけに膀胱がんを疑う場合、通常の尿検査と一緒に尿細胞診検査、超音波(エコー)検査、膀胱鏡検査を行います。また、がんがあることがわかった場合には、その拡がりを調べる検査として、MRI検査、転移を起こしていないかを確認するCT検査も行います。

 

①尿細胞診検査

尿路にがんがある場合、尿中にがん細胞が混じって出てくることがあります。尿細胞診は尿検査で行うことができるがんの検査です。がんがあっても尿細胞診に異常を認めないこともあり、尿細胞診の精度は100%ではありません。そのため、他の検査と組み合わせて行う必要があります。

 

②膀胱鏡検査(内視鏡検査)

膀胱鏡検査は膀胱の中を観察する、胃カメラのような検査です。細く柔らかい軟性膀胱鏡を尿道から膀胱へ挿入し、膀胱の内部を観察しがんの有無を確認します。がんがある場合には、場所、大きさ、数、形状などがわかります。 尿の通り道にカメラを挿入することに抵抗を感じる方もおられますが、膀胱がんを発見するのに最も精度の高い検査であり、尿路のがんを調べるためには欠かせない検査です。検査に麻酔や沈静は必要なく、数分で終了します。膀胱鏡検査は外来受診で行うことが可能です。

 

③MRI検査、CT検査

膀胱がんの周辺への拡がりや転移がないかを調べるために行います。

 
 

膀胱がんの診断

膀胱がんの確定診断のためには、膀胱の粘膜を採取して顕微鏡で観察する必要があります。 膀胱鏡での検査やMRI検査で表在性/浸潤性膀胱癌が疑われる場合には経尿道的膀胱腫瘍切除術を予定し、上皮内がんを疑う場合には経尿道的膀胱生検を予定します。いずれも、病変が疑われる箇所を内視鏡手術で切除、採取する手術で、麻酔が必要です。

 

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR−Bt)

表在性/浸潤性の膀胱がんにはこの術式が一般に行われます。表在性のがんであれば経尿道的膀胱腫瘍切除術でがん全体を摘出できることが多く、診断と治療を兼ねることになります。麻酔を行って、膀胱内を内視鏡で確認しながら高周波電気メスでがんを切除します。

 

経尿道的膀胱腫瘍一塊切除術(TUR-BO)

当院では、より正確ながんの根の深さや拡がりの判定のために経尿道的膀胱腫瘍一塊切除術(TUR-BO)と呼ばれる手術の方法を積極的に行っています。
経尿道的な手術により膀胱がんであることが確認されたあと、病期(ステージ)を決定し、治療の方針を決めていくことになります。

病期(ステージ)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉です。病期は、がんがどのくらい深く入りこんでいるか(深達度:Tis~T4)、リンパ節や別の臓器への転移があるかどうかで決まります。膀胱がんでは前述した異型度も問題になります。画像診断と膀胱粘膜生検による組織検査 の結果に基づいて診断した病期と異型度によって治療方法が決まっていきます。

 

転移

転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長したものをいいます。がんを手術で全部切除できたようにみえても、その時点ですでにがん細胞が別の臓器に移動している可能性があり、手術した時点では見つけられなくても、時間がたってから転移として見つかることがあります。

 

再発

再発とは、治療により目に見える大きさのがんがなくなった後、再びがんが出現することをいいます。経尿道的膀胱腫瘍切除術で膀胱がんを切除した場合には、膀胱粘膜の多くの部分が残っているので、がんが再発を起こす可能性があります。膀胱を摘出した場合でも、腎盂や尿管といった、同じ性質の粘膜がおおっている部位にも再発のリスクがあります。定期的な通院で膀胱鏡や尿の細胞診を行いチェックします。

ステージ 状態
ステージ0 がんが粘膜や上皮内に留まっている
ステージI がんが粘膜層を越えて浸潤しているが、筋層にまでは及んでいない
ステージII がんが筋層までで留まっている
ステージIII がんが筋層を越えている
ステージIV 膀胱にできたがんが、周辺の臓器(腎臓・前立腺・子宮など)へ転移している(IVa期)
膀胱から遠い臓器へ遠隔転移している(IVb期)

膀胱癌の治療

診断と治療を兼ねて行う経尿道的膀胱腫瘍切除術は、表在性の膀胱癌に対しては十分な治療である場合が多いですが、浸潤性膀胱がんや上皮内がん、転移を起こしているがんでは、経尿道的な治療だけでは不十分な場合があります。そういった場合には、膀胱を摘出する手術、放射線療法、化学療法、薬物の膀胱内注入療法を行うことがあります。

 

膀胱全摘除術

経尿道的な治療で十分にがんに対する治療ができない場合に、膀胱全てと周りのリンパ節を摘出する手術です。男性では前立腺と精嚢と尿道、女性では子宮と卵巣、腟の一部、尿道を膀胱とひとかたまりに全て摘出します。

 

*尿路変向(変更)術

膀胱を摘出すると「尿をためておくタンク」がなくなることになります。従って、尿の出口を新たにつくる必要があります。これを尿路変向術とよびます。方法は主に次の3つがあり、当院では患者様の病状と希望をふまえて選択し行っております。

  • ⅰ)回腸導管造設術
    回腸(小腸の一部)を20㎝ほど切り取り、左右の尿管をつなぐことで、尿を導く管(導管)にします。この導管の一方をお腹の皮膚に縫いつけて尿を出す出口にします。尿を運ぶ人工肛門のようなものであり、これを尿路ストーマと呼びます。
  • ⅱ)新膀胱造設術
    小腸を縫いあわせて袋をつくり、これを尿道につなぎ膀胱の代わりとして用います。お腹に尿の出口をつくるストーマではなく、手術前と同じように尿道から尿を出すことができます。本当の膀胱ほどではありませが、排尿機能が残るので、尿道を摘出する必要がないときに考慮する方法です。ただし、女性では術後の排尿機能が安定しないことが多く、術式を選択する際には注意が必要です。また、膀胱がんの手術後には尿道にもがんが再発することがあるので、その危険が高いと判断されたときはこの方法は使えません。
  • ⅲ)尿管皮膚瘻
    尿管を切断して、お腹の皮膚に縫いつけます。腸を切り取ることがなく、患者さんの体の負担はいちばん少ない尿路変向術です。尿はお腹からでる尿路ストーマです。尿管皮膚瘻は手術の体の負担は小さくなりますが、ストーマの周りの皮膚が荒れたり、尿管が狭くなり尿の流れが滞ったりする場合もあります。
 

放射線療法

体の外から放射線を照射しがんを治療する方法です。膀胱癌に対する放射線治療の効果は限られており、当院では手術が不可能な場合や、手術前後の補助的な治療として行われることがあります。がんによる痛みや血尿などの症状を緩和し、転移したがんをコントロールすることを目的に行うこともあります。
患者さんの希望によっては膀胱を摘出せずに放射線治療と抗がん剤治療の併用を行う施設にご紹介させていただくことも可能です。
副作用は、放射線が照射された部位によって変わってきます。倦怠感や吐き気、下痢、下血、頻尿、血尿など個人によって程度が異なります。症状が強い場合は、症状を和らげる治療も並行して行います。

 

薬物療法

*BCG(ウシ型弱毒結核菌)

膀胱内に上皮内がんや悪性度の高い表在性がんがあるときは、膀胱を摘出する手術が適応になります。しかし、膀胱を摘出する体への負担は相当なものです。当院では、結核のワクチンとして使用されるBCGという薬剤を膀胱内に注入することでがんの治療を行う方法も行っています。国内国外ともに昔から使用されている治療法で、特に上皮内がんに対して高い効果が期待できます。経尿道的膀胱腫瘍切除術を行ったあとに何度も再発するような膀胱がんに対しても、再発の予防を目的にBCGや抗がん剤の膀胱内に注入する治療が行われることもあります。
ただし、筋層に広がったがんに対しては効果が期待できない事、BCGでの治療後の約半数に再発が見られる事、一定の割合で発熱や排尿時痛、関節痛や結膜炎(ライター症候群)といった副作用がある事などの問題があります。

 

*抗がん化学療法

がん細胞は、正常な細胞にはないさまざまな遺伝子変異を獲得していきます。その遺伝子変異によるがん細胞の変化の一つにPD-L1分子の発現があります。PD-L1分子により、がんはからだの免疫細胞から攻撃をうけないように隠れる機能を獲得します。免疫チェックポイント阻害薬はこの「がんが免疫細胞から攻撃をうけないように隠れるメカニズム」をブロックするお薬です。膀胱がんには2017年12月に保険適応となった比較的新しい薬剤です。2021年8月現在では、抗がん剤を用いた化学療法に効果が乏しいがんに対して使用されます。従来の薬物とは異なる副作用が出現する可能性がある薬剤でもあるため、十分な注意が必要です。

治療後の経過観察

表在性膀胱がんや上皮内がんに対し、経尿道的手術やBCG膀胱内注入での治療を行っている場合、再発がおおいため、定期的な受診と尿検査、そして膀胱鏡検査が必要になります。膀胱を摘出して尿路変向術を受けられた方も、回腸導管や新膀胱がきちんと機能しているかどうか、腎障害が出てきていないか、そしてがんの再発がないかを定期的にチェックする必要があります。