泌尿器のがん - 腎盂尿管がんこのページを印刷する - 泌尿器のがん - 腎盂尿管がん

1.腎盂尿管癌とは

腎盂(じんう)と尿管は、腎臓でつくられた尿を膀胱まで運ぶ働きをしています。尿路上皮と呼ばれる粘膜でできており、腎盂尿管がんのほとんどはこの尿路上皮から発生する尿路上皮がんです。腎盂尿管がんは50歳代後半以降に増加し始める傾向にあり、男性に多いがんです。発生の危険要因として喫煙、フェナセチン含有鎮痛剤などが明らかになっています。腎盂尿管がんで最も多い症状は便器が赤く染まるような、肉眼的にわかる血尿です。

2.検査と診断

血尿を認め、尿路の腫瘍が疑われる場合には、腎盂尿管がんと膀胱がんの可能性を考え、両方を見逃すことが無いように検査を進めます。

1)超音波(エコー)検査

お腹に超音波検査の器械を当てることで膀胱の中に腫瘍が無いか、また腎臓のはれ(水腎症)がないかを確認します。もし、尿管がんが尿管をふさいでいるようなことがあれば、尿の流れが滞り腎臓がはれてくることが多いため,超音波検査で確認できます。

 

2)尿細胞診検査

尿路にがんがある場合、尿中にがん細胞が混じって出てくることがあります。尿細胞診は尿検査で行うことができるがんの検査です。がんがあっても尿細胞診に異常を認めないこともあり、尿細胞診の精度は100%ではありません。そのため、他の検査と組み合わせて行う必要があります。

 

3)膀胱鏡検査

膀胱鏡検査は膀胱の中を観察する、胃カメラのような検査です。細く柔らかい軟性膀胱鏡を尿道から膀胱へ挿入し、膀胱の内部を観察します。尿の通り道にカメラを挿入することに抵抗を感じる方もおられますが、膀胱の中にあるがんを発見するのに最も精度の高い検査であり、尿路のがんを調べるためには欠かせない検査です。検査に麻酔や沈静は必要なく、数分で終了します。膀胱鏡検査は外来受診で行うことが可能です。

 

4)CT検査・MRI検査

膀胱鏡では、膀胱内の観察はできますが、腎盂や尿管の内部は見ることができません。CT検査やMRI検査では、腎盂尿管がんが存在する可能性やがんの転移の有無を確認することができます。

 

5)尿管鏡検査

尿細胞診、CT検査、MRI検査により腎盂尿管がんが疑われても、十分ながんの証拠が得られない場合があります。十分ながんの証拠が得られない場合には、そのまま治療や手術を行うのではなく、がんの診断の確定を目的に尿管鏡検査を行います。尿管鏡検査には麻酔が必要になるので入院で行います。膀胱鏡検査では観察することができない腎盂や尿管の様子も観察することができ、異常が疑われる部分を採取すること(生検)も可能です。

 

3.病期(ステージ,進行度)

腎盂尿管がんが発見された場合、病期によって治療方法を選択します。腎盂尿管がんの腫瘍の拡がりはCT検査やMRI検査で正確に診断することが難しいため、手術を行って摘出した腫瘍を顕微鏡で観察した結果、手術前に想定した病期と必ずしも一致しないことがあります。その場合は、手術により摘出した顕微鏡検査の結果に従って、その後の治療を選択します。

0期 がんが腎盂・尿管の粘膜にとどまっている。
I期 がんが腎盂・尿管の粘膜下の結合組織に広がっている。
II期 がんが腎盂・尿管の粘膜を越えて広がり、筋肉の層に及んでいる。
III期 がんが腎盂・尿管の筋肉の層を越えて、外側の組織まで及んでいる。
IV期 がんが隣接する臓器やまわりの脂肪組織まで広がっている。
または,リンパ節や別の臓器に転移がある。

4.治療

1)手術

腎盂尿管がんでは、転移がなければ基本的には手術を行います。手術の内容ですが、一般的にはがんがある側の腎臓と尿管をひとかたまりに摘出する腎尿管全摘術が行われます。腎盂尿管がんは、尿路内に多発・再発する特徴があるため、がんの部分のみの切除では、再発を招く危険性があります。そのため、腎臓と尿管をひとかたまりに摘出する手術が必要だと考えられています。この手術は、からだに2つある腎臓のうち、1つを取り除いてしまう手術になります。そのため、手術前から片方しか腎臓が機能していない患者様の場合には、がんの再発のリスクが低いことが想定される場合に腫瘍のみを部分的に切除する手術を行うこともあります。

 

当院での手術の方法

腹腔鏡補助下腎尿管全摘除術

腎盂尿管がんの手術では、腎臓と尿管をひとかたまりにして摘出します。腎臓は腰のあたりにあり、尿管は下腹部まで続いています。当院では、腎臓に対してはわき腹のあたりから腹腔鏡を使用した手術を行い、尿管に対しては下腹部の創から手術を行います。腹腔鏡手術は1-2cmの創が3-4か所、下腹部には8-10cm程度の創が残ります。腹腔鏡手術と下腹部からの手術を組み合わせることで、腰のあたりから下腹部までつながっている腎臓と尿管をひとかたまりにしたまま、小さい創で摘出することが可能です。

 

2)BCG(ウシ型弱毒結核菌)注入療法

結核のワクチンとして使われるBCG(ウシ型弱毒結核菌)を腎盂や尿管に注入する治療法です。腎盂尿管がんの中でも、上皮内癌とよばれるタイプのがんに対しては効果が期待できると考えられています。特に、片側の腎臓しか機能していない場合など腎臓の摘出により透析が必要になることが見込まれる場合には、腎臓を温存する目的でBCG注入療法がおこなわれることがあります。

 

3)抗がん剤治療

術前の画像診断によりがんの浸潤が認められた場合や手術後の組織検査の結果によっては、手術前後に抗がん剤治療を行うことがあります。転移例でも抗がん剤治療の効果をみて、手術や放射線治療を追加することもあります。抗がん剤の効果と副作用は個人差があるため、効果と副作用をみながら行います。

 

3)免疫チェックポイント阻害薬

がん細胞は、正常な細胞にはない様々な遺伝子変異を獲得していきます。その遺伝子変異によるがん細胞の変化の一つにPD-L1分子の発現があります。PD-L1分子により、がんはからだの免疫細胞から攻撃をうけないように隠れる機能を獲得します。免疫チェックポイント阻害薬はこの「がんが免疫細胞から攻撃をうけないように隠れるメカニズム」をブロックするお薬です。腎盂尿管がんには2017年12月に保険適応となった比較的新しい薬剤です。2021年8月現在では、抗がん剤を用いた化学療法に対して効果が乏しいがんに対して使用されます。従来の薬物とは異なる副作用が出現する可能性がある薬剤でもあるため、十分な注意が必要です。