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1.腎がんとは

腎臓は、腰のあたりの背骨の左右に1つずつあるソラマメのような形をした臓器です。血液中の老廃物を尿として排泄する働きがあります。腎臓にできるがんには、成人に発生する腎がん(腎細胞がん)と腎盂がん、小児に発生するウィルムス腫瘍があります。ここでは、腎がん(腎細胞がん)について説明します。
腎がんは50歳代後半以降の男性に多いといわれています。肥満、高血圧、喫煙、長期の血液透析が発生リスクだということが明らかになっています。腎がんは、早期に発見されれば手術での完治が可能です。多くの症例では無症状なため、検診などで腎臓の腫瘍を疑われた場合には早めに受診することが大切です。

2.検査と診断

腎がんは多くの場合、腹部の超音波(エコー)検査などのスクリーニング検査(いわゆる検診)で偶然に発見されます。エコー検査で発見される腫瘍の中には、腎嚢胞(じんのうほう)や腎血管筋脂肪腫(じんけっかんきんしぼうしゅ)といった良性疾患もあるため、腎がんの確定診断を行うためには、より詳細な検査が必要です。その中でも、造影CT検査は非常に重要です。造影CT検査で腎がんが強く疑われる場合には、確定診断を行う前に、診断と治療をかねて腎腫瘍を摘出する場合があります。造影CT検査で腎がんの診断が明確ではない場合には、MRIの検査を行ったり、手術を行う前に生検を行ったりすることもあります。

3.病期(ステージ,進行度)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、「ステージ」といいます。1~4の病期に分けますが、ローマ数字が使われ、I期,II期、III期、IV期に分類されています。病期は、がんの大きさや周辺の組織のどこまで広がっているか、リンパ節や別の臓器への転移があるかどうかで決まります。簡単に記載すると以下のようになります。

I期 腎がんの直径が7cm以下で腎臓にとどまっている。
II期 腎がんの直径が7cmを超えるが腎臓にとどまっている。
III期 腎がんが腎静脈または周囲の脂肪組織まで及んでいる。
または所属リンパ節に1個までの転移がある。
IV期 別の臓器に転移がある。または所属リンパ節に2個以上の転移がある。

4.治療

1)手術療法

腎がんは薬物治療や放射線治療の効果に限りがあるため、病期にかかわらず手術により摘出することが一般的です。他の臓器に転移があっても腎臓の摘出を行う場合もありあす。手術によって、腎がんの組織型(がん細胞の種類)が判明し、がんの組織型にあわせた追加の治療や手術後の経過観察の必要性が判断できます。

 

当院における手術の方法

  1. 腎部分切除術
    早期に発見された腎がんの治療においては、がんの切除とともに、正常な腎臓の温存することが大切です。そのため、当院ではがん部分のみを切り取る手術を行っています。また、腎機能に少しでも悪影響を及ばさないよう、腎臓への血液を遮断しない無阻血と呼ばれる方法を可能な限り行っています。
  2. 根治的腎摘除手術
    早期腎がんでも部分切除が困難な症例や、サイズが大きい腎がんの場合には、腎臓を包む周囲の脂肪ごと、腎臓を丸ごと摘出します。これを根治的腎摘除術とよびます。片方の腎臓が正常に機能していれば、がんのある方の腎臓を全摘しても通常は腎不全にはなりません。
 

ミニマム創手術(腹腔鏡補助下小切開手術)、腹腔鏡下腎摘除術について

当院では、体の負担が少ない手術として「腹腔鏡下腎摘除術」「ミニマム創手術(正式名:腹腔鏡補助下小切開手術)」を行っています。従来の開腹手術では腎部分切除術・腎摘除術ともに約15~20cmの創が残りますが、腹腔鏡手術は約1cmの穴を3~4か所、ミニマム創手術は5~8cmの創を1つのみで行います。

 

2)薬物療法

腎がんは抗がん剤の効果がほとんど期待できません。そのため、基本的な治療方針は手術での腫瘍切除となります。しかし、転移のある症例や手術が困難な状態にある患者様には、薬物治療を行うことがあります。分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、サイトカイン療法などが薬物療法の中心になります。

  1. 分子標的(ぶんしひょうてき)治療
    分子標的薬というのは、特定のタイプのがんの増殖などにかかわっている物質をピンポイントに攻撃する新しいタイプの薬剤です。腎がんの成長にかかわる分子を阻害することで、がんが大きくなるのを抑えて、生存期間を延ばせる可能性があります。様々な副作用(手足の発赤や知覚過敏,血圧上昇、下痢、倦怠感など)があるため,対症的な治療や薬剤の減量を考えながら治療を継続していきます。
  2. 免疫チェックポイント阻害薬
    がん細胞は、正常な細胞にはないさまざまな遺伝子変異を獲得していきます。その遺伝子変異によるがん細胞の変化の一つにPD-L1分子の発現があります。PD-L1分子により、がんはからだの免疫細胞から攻撃をうけないように隠れる機能を獲得します。免疫チェックポイント阻害薬はこの「がんが免疫細胞から攻撃をうけないように隠れるメカニズム」をブロックするお薬です。2016年に初めて保険適応になってから、複数種類の免疫チェックポイント阻害薬が使用可能となっており、腎がんに対する薬物療法は新しい時代を迎えつつあります。従来の薬物とは異なる副作用が出現する可能性がある薬剤でもあるため、十分な注意が必要です。
  3. サイトカイン療法
    インターフェロンやインターロイキン2という薬(注射薬)を使い免疫力を高めることでがんの縮小を期待する治療です。がんの縮小や生存期間の延長は10~15%程度で見込めるといわれています。サイトカイン療法の副作用には、個人差がありますが、インフルエンザに似た発熱、関節の痛みなどが起こることもあります。
 

3)凍結療法

皮膚から腫瘍に直接針を刺し、腫瘍を凍結、治療する方法です。腎がんが小さい場合や、手術で腎臓を摘出することが困難な場合に適応になります。治療時間は、治療する病変数や大きさにより様々ですが、通常は1時間~2時間程度で終わります。現在、当院では凍結療法は行っておらず、岡山大学病院にご紹介し治療を受けていただいております。