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乳腺甲状腺外科部門

診療科紹介

秋山 一郎  野上 智弘

I.乳腺外科

本邦ではこの30年間で乳癌にかかる割合が約3倍に増えました。女性の約10人に1人が生涯に乳癌 にかかるようになってきました。乳癌は早く見つけることで治る可能性の高い癌です。早期発見するためには乳癌検診や自己検診が重要となります。40歳以上の女性に最も有効な検診はマンモグラフィーです。しかし、若い人は乳腺の密度が高くマンモグラフィーでは腫瘤を見落とし易いため超音波検査の併用も推奨されています。視触診のみは有効性が低く今後廃止される方向です。外来ではマンモグラフィー、超音波検査を行い、悪性を疑う腫瘍が認められた場合細い針で細胞や組織を採取します。その後、顕微鏡を用いて病理医による診断が行われます。乳癌と診断されれば、CT、MRI、 骨シンチグラフィなどの全身の画像検査が行われます。そして入院、手術となります。病状によっては抗がん剤治療を先行して行うこともあります。手術の入院期間は1週間以内です。最近ではBRCA遺伝子の検査も取り入れられるようになりました。乳癌を発症する人の約1割が生まれつきこの遺伝子の病的変異をもっているとされます。またBRCA遺伝子の病的変異がある女性の4~6割で乳癌が発症し、2~4割が卵巣がんを発症します。そのため、BRCA遺伝子の病的変異を持つ女性には乳腺や卵巣の予防的切除が認められております。ただし、予防切除が保険適応で行われる施設は限られており、岡山県では岡山大学病院と川崎医科大学付属病院のみで予防的切除が可能となっております。BRCA遺伝子検査は一定の条件を満たせば保険適応があり、採血すれば3週間程度で結果がわかります。乳癌遺伝子を持つ人にだけ使える薬剤も登場し、今後ますます治療は進化するでしょう。生まれたときに採血すれば、将来自分が どんな癌になりそうなのかわかる時代がやってくると思われます。


II.甲状腺外科

甲状腺は首の前にある蝶々のような形をしたホルモンを産生する小さな臓器です。甲状腺ホルモンは食べたものをエネルギーに変える代謝を司る大事な役割を担っています。このホルモンの量が多過ぎたり少な過ぎたりすると、バセドウ病や橋本病になります。多くの場合、薬で治療し手術になることは稀です。

手術になるのは増大するしこり(腫瘍)が出来た場合です。悪性の癌はもちろん、良性の腺腫も薬では治りません。

とはいえ、何年もかけてゆっくり増大するので慌てて手術する必要はありません。がんの場合1cm以下、腺腫の場合4cm以下は経過観察することも多いのです。

甲状腺がんは年間18000人が罹り、1800人が亡くなります。乳がんと比べるとそれぞれ1/5、1/8とまれで、あまり身近に感じられない病気だと思います。

しかし剖検例(がんとは無関係に亡くなった方を解剖して調べること)の10%以上に1cm以下の微小な甲状腺がんが発見されることから、がんを抱えながらも健康を害することなく天寿を全うする人が多いことが知られています。悪影響を及ぼさないなら切除しなくても良いのですが、それを見分けるには経過観察を続けることが大切です。

当院は従来から甲状腺治療に注力しており、がんの再発病変や予防などに有効な放射性ヨード治療(アイソトープ治療)の治療室が2室あります。建設費や維持費が高いことから全国で150室しかなく、患者さんの約3割しか治療を受けてられていないとされています。

この貴重な治療を受けに他県からも患者さんが訪れ、現在1年待ちです。


当院は日本乳癌学会、日本内分泌外科学会の認定施設で、すべての手術を専門医が行っています。とはいえ、外科医だけでは治療は完結しません。手術は数時間で済みますが、その後の通院は10年間続きます。がんとの戦いは多種多様な武器と仲間の支えがあってこそだと実感します。