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心臓血管外科

スタッフの紹介

診療科紹介

心臓血管外科の紹介 と 最近の手術治療の紹介
-- より安全な手術を目指した総合病院としての取り組み --

心臓血管外科 中井幹三
 

心臓血管外科では、心臓・大動脈疾患および末梢血管疾患に対する診断と手術治療を行っています。
スタッフは中井医師(大動脈外科、血管外科、ステントグラフト)、 𠮷田医師(成人心臓、大動脈外科)の心臓血管外科専門医2名と、古田医師の修練医1名の計3名の医師による診療体制で、全員があらゆる心臓血管外科領域の患者様を担当し、診療にあたっています。

 
 

総合病院=専門病院の集まり

私たちは心臓血管外科専門病院ではありませんが、心臓血管外科専門チームです。ただ総合病院ですので他の階や部署では、他科専門チームたちが各々の疾患を専門的に診ています。
最近では高齢化に伴い、心臓だけが病気の患者さんは減り、脳神経疾患(脳梗塞、脳出血など)、呼吸器疾患(長年の喫煙、呼吸機能の低下、肺腫瘍術後など)、腎臓疾患(腎機能低下、透析患者)、糖尿病、泌尿器疾患(前立腺肥大や腫瘍など)、整形外科や耳鼻科、眼科疾患にいたるまで他の病気を持たれている患者さんも多いです。総合病院とは各科専門病院が集まっているデパートのようなものであり、他の病気で困ったことがあればすぐ専門的に診てもらうことができます。心臓専門病院での勤務時代には他の病気のために救急車で緊急転院していただくこともありましたし、そのような状況ですので治療が速やかに受けられないこともありました。
2019年に当院にて心臓手術を受けていただいた患者さんのうち41% (44/111)は手術前より他科にかかる病気を併せて持たれており、術後に68%(74/111)の患者さんに他科診察を受けていただいています。(循環器内科と歯科は除いた数字です。)前述に加え、術前より持たれていた病気にかかわる内服薬調整、術後の軽度発熱や尿路トラブルから最近耳が聞こえにくい、膝が痛い、これを機に眼も診てほしいといったもの、術後神経障害までさまざまです。高齢患者さんが増加している最近では心臓以外になにも体に問題がないケースは少ないため各科専門チームのそろった総合病院ということは私たちの強みです。産婦人科や小児科のスタッフも充実しており、若い女性にも安心して受診していただけます。また、国立病院のため営利目的の不要な治療も行う必要がありません。



心臓弁膜症の手術

心臓弁膜症は近年非常に患者さんが増加している分野です。心雑音だけ指摘されている無症状のものから歩行時や階段の上り下りで息切れがするものまで様々です。どの段階で手術に踏み切るかサジ加減が難しいですが、過去の膨大なデータ研究により線引きがされており症状が出る前の手術が勧められるようになってきました。「大動脈弁の至適手術時期について」は欧米学会誌に発表も行っており手術時期の決定は当院でも得意としています(下記参照)。外来でご本人/ご家族と一緒にガイドライン(医師達の治療方針取り決め)や過去のデータを見ながら説明させていただきます。手術がまだ必要無い早すぎる段階での手術治療は絶対にお勧めしないように心掛け一緒に病気とお付き合いさせていただきたいと思っています。他院で無症状にも関わらず手術を勧められて迷われている方もどうぞご相談ください。
弁膜症手術の主流は昔まで弁置換術でしたが、僧帽弁において自己弁を温存する弁形成術が今は主流で行われています。向き不向きはありますが可能な場合は形成術をできるだけ行う方針としております。大動脈弁に対しても、向いている患者さんに対して自己弁温存手術(大動脈弁形成術)を行うようにしています。形成術後はワーファリンによる抗凝固療法(血がサラサラになる薬)が不要となるため、これらの手術術式を選択することで術後の内服薬剤をずいぶん減らすことができます。
人工弁置換術では機械弁か生体弁(ウシやブタからできている弁)の2種類から使用する弁を選ぶ必要があります。機械弁はワーファリンを一生涯飲む必要がありますが耐久性が高く比較的若い患者様に向いています。一方、生体弁はワーファリンを中止できるものの10~15年程度で壊れることが多く比較的高齢の患者様に向いています。「生体弁がどのような患者さんにおいて耐久性が高いか(長持ちするか)」という研究結果を当院医師が欧米学会誌に発表しており、私たちが専門とする分野でもあります。弁選択も不安な場合には当院専門家にご相談ください(下記参照)。
最近では、比較的小さな傷で胸骨(胸の真ん中の板状の骨)をできるだけ切らない低侵襲手術(MICS: Minimally Invasive Cardiac Surgery)が広まってきています。向き不向きはありますが当院においても内視鏡補助下に胸骨を全く切らないMICS を行っておりますので希望される方はご相談ください。





最新の生体弁の導入

生体弁の耐久性向上は数十年にわたり世界中で研究と開発が行われてきた分野です。具体的には、動物組織(ウシやブタ)に対する異物反応を抑える処理や抗石灰化処置(経時的な石灰化を抑える処置)です。新しい生体弁の方が一般的に高額となるため長期余命が見込めない高齢者にはひと昔前の生体弁が使用される傾向があります。我々は手術を受けていただく患者さん全員に長生きしていただき、人工弁も長持ちしてほしいと思っています。当院では、大動脈弁生体弁には2018年夏に国内使用が可能となった最新抗石灰化処理が行われているInspiris 生体弁(エドワーズライフサイエンス社)を全例に使用しています。(新しい生体弁ですが古いものと比べても患者さんの負担額は変わりません。)



経カテーテル大動脈弁置換術

もともと大動脈弁手術は胸を開き心臓を止めて行ってきました。最近では、高齢者や脆弱な患者さんに対して胸を切らずに心臓が動いたままカテーテル治療で大動脈弁置換術が行えるようになってきています。使用する弁の耐久性の問題があり向き不向きはありますが、2013年より国内でも治療が始まり一般的になってきています。カテーテルでの治療を考えており当院で話しを聞きたい患者さんも御相談ください。



冠動脈バイパス手術

心臓表面を走る冠動脈が細くなったり詰まったりした場合に行う手術です。(狭心症や心筋梗塞に対するもの)大切なことは、多少時間をかけてでも長持ちするきれいなバイパスを作ることだと思い手術を行っています。
手術として人工心肺を使用した冠動脈バイパス手術(心臓を止めて行うもの)と、人工心肺を使用しないオフポンプ冠動脈バイパス術(心臓が動いたまま行うもので少し難易度が高くなるもの)の2つがあります。高齢者やリスクの高い患者様に対しては、人工心肺を使用しないことで手術リスクが低くなるためオフポンプ冠動脈バイパス術が推奨されています。当院では心臓が動いたまま行うオフポンプ冠動脈バイパス術を標準的に行い、心停止した方が良いバイパスが作れると考えられる症例に対しては人工心肺を採用しています。術後の飲み薬や使用血管によりバイパスが長期間流れるかどうか決まる部分もあり、注意深く使用血管や飲み薬を選んでいます(下記参照)。



 
 

大血管手術

胸部大動脈瘤、胸部大動脈解離に対する手術も脳保護の進歩、人工血管の改良により安全に行われるようになってきました。救急体制が確立されて、緊急手術症例も増えてきています。ステントグラフト(血管内治療)が導入され、治療方法の選択肢も大きく広がりました。ステントグラフトは手術が低侵襲であり、従来手術(人工血管置換術)は長期的な手術効果が期待できるという、それぞれの長所(逆は、それぞれの短所となりうる)を持っています。患者さんの状態は千差万別なので、十分な説明の上、一人ひとりに合った治療法を選択しています。

 

 
 

肺動脈内膜摘除術

当院循環器科は、肺高血圧治療の分野で国際的にも有数な施設となっております。慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は、当院でカテーテル治療が開発され、治療成績の向上が得られていますが従来は外科的血栓摘除術が治療の主体でした。当院でも手術が有効と判断された方に対して、本手術を施行しています。

 
 

末梢血管手術

現在、慢性下肢虚血の原因は、ほとんどが閉塞性動脈硬化症ですが、この病気は全身の動脈硬化疾患で、特に冠動脈や頭頸部血管病変を合併することが稀ではありません。そこで、当院では造影CT検査、MRA、頸部エコー検査、冠動脈造影検査などを組み合わせて術前評価を行っております。
間歇性跛行(歩行で下肢の痛みなどが出現し、休むとおさまる)の患者さんは、本来下肢切断にいたる危険性は低いのですが、ご本人のご希望を踏まえ、運動療法、カテーテル治療、バイパス手術およびこれらの組み合わせから治療方法を選択しています。一方、重症虚血肢(安静にしていても下肢の痛みがある、または虚血性で潰瘍ができた)の患者さんは、下肢の切断を防ぐために早急に血行再建を必要とします。当院では、当科と循環器科のみならず、形成外科、整形外科などとの連携により治療を進めています。

 
 

下肢静脈瘤手術

侵襲の少ない麻酔、手術方法を選択しており、日帰り手術もしくは2-3日入院が可能となっています。

 

下肢静脈瘤の治療

従来は、逆流する表面の静脈を抜去するストリッピング手術を主に行っていましたが、平成28年からラジオ波による血管内焼灼術を導入し、適応がある患者さんではこれにより治療の低侵襲化を目指しています。高周波アブレーションカテーテルを下肢静脈瘤内に挿入し、カテーテルから放出される熱により静脈壁を収縮させ閉塞させてしまう治療法です。外来でも治療を行う事ができ、局所麻酔、カテーテルを差し込む小さな傷口だけで済ませることができます。一方、本症は重症になれば、うっ滞性皮膚病変を伴うため、皮膚科、形成外科と密な連携をとり、診療を行っています。

 
 

2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
心臓胸部大動脈手術(開心術) 111 124 110 118 52
弁膜症手術(複合手術含む) 51 62 45 30 15
冠動脈手術(複合手術含む) 40 55 65 56 20
胸部大動脈手術(複合手術含む) 18 11 14 16 5
その他 17 15 9 16 12
ステントグラフト内挿術 22 13 11 24 19
胸部大動脈 11 5 5 15 6
腹部大動脈 11 8 6 9 13
腹部大動脈手術(開腹) 22 11 11 13 21
末梢血管手術 98 111 155 113 95
合計 253 259 287 267 187


心臓、血管領域でお困りの患者さんがおられましたら気軽に当院地域連携室もしくは当科スタッフに直接ご連絡ください。


 
お知らせ
--入院および入院予定の患者様へ--
 

(National Clinical Database)、および「日本心臓血管外科手術データベース」(JACVSD:Japan Adult Cardiovascular Surgery Database)の趣旨に賛同し、これらの事業に参加しております。

 

外科系の専門医制度と連携したデータベース事業(NCD)

日本では現在、多くの診療科領域において、どのような場所でどのような手術が、誰によって、どの程度の数が行われているかが、把握されていない状況です。外科関連の専門医の適正配置を考える上では、現状を把握することがなによりも重要です。外科医は、自ら実施したすべての手術をNCDのデータベースに登録します。 NCDでは、患者さんに最善の医療を提供するため、これらのデータを分析・評価し、外科医療の現状を体系的に把握します。

(ホームページより抜粋 :http://www.ncd.or.jp/about/)

 

日本心臓血管外科手術データベース (JACVSD)

現在日本の心臓血管外科手術の結果に関する状況は全国規模では把握されておらず、どのような手術がどれくらいの危険性でなされているのか、また、手術前の状態が良好な方と重症な方とで手術の危険性にどの程度違いがあるのか、といった内容に関して全国規模の研究はなされておりません。そこで、心臓血管外科手術を受ける患者さんの手術前の医学的身体状況と行われた手術およびその結果を調査し、これをデータベースとして情報収集し、全国的に集計することにより日本の心臓血管外科学の進歩、ひいては国民全体の福祉健康の増進に寄与することを目的としています。

(ホームページより抜粋 :http://www.jacvsd.umin.jp/P3.html)

詳しくは、各ホームページをご覧ください。
 

上記に基づき、患者様のデータを各データベースに登録しております。何卒趣旨をご理解の上、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。なお、これら研究のデータ収集への同意は自由です。ご自身のデータの登録を望まれない方は、遠慮なくお申し出ください。登録から除外させていただきます。また、その場合にも診療、看護等の医療上の不利益を受けることは全くございません。