岡山医療センターでは、2017年から院内標榜科として「神経小児科」を開設し、2020年から正式な院外標榜科として「小児神経内科」がスタートしました。小児神経学を専門とする小児科・新生児科のスタッフで構成されます。小児神経分野は扱う疾患の種類が多く、また患者さんも多いため欧米では古くからその専門性が認められ科として独立してきましたが、日本では専門科としての認識がなかなか進んでおらず、国立大学で小児神経学の専門講座を持つのは岡山大学小児神経科と鳥取大学脳神経小児科の2施設にとどまります。そんななかで当科では岡山大学小児神経科での専門的なトレーニングを受けた複数の小児神経科医が診療にあたっています。
けいれん性疾患(熱性けいれん、てんかん)、中枢神経感染症(脳炎・脳症、髄膜炎)や発達の課題(発達のおくれ、自閉スペクトラム症、ADHD、限局性学習症、脳性麻痺)の診療を主に行っています。 けいれん性疾患や中枢神経感染症は24時間待ったなしの救急医療であり、当院小児科救急と連携して迅速な専門的検査、治療を行っています。てんかんのコントロールについてはてんかん専門医を中心に、なるべく多剤にならないような薬物療法を心掛け、発作を抑制しつつ患者さんの生活の質を高めることを目指しています。 また神経発達症(いわゆる発達障害)についても取り組んでおり、自閉スペクトラム症やADHDだけでなく、専門施設が限られている限局性学習症(学習障害・読字障害・書字障害)についてもリハビリテーション部門と連携し集学的に対応に取り組んでいます。 小児神経内科は脳や神経の「病気」を診る診療科であると同時に、子どもが大人に成長していく過程である「発達」を見守る診療科です。身体的に健康な状態を目指すことはもちろんですが、様々な病状あるいは発達段階の子ども達が、成人期に向けて豊かで快適な生活を獲得することが私たちの目指すところです。
発達の遅れ、てんかんの疑い、その他の神経学的な異常の疑いなど、かかりつけ患者さんに関してご心配なことがありましたらお気軽にご紹介ください。神経発達症(発達障害)の疑いにつきましては、市内に療育機能も備えた複数の専門施設がありますので、診療機能分担として当科では基本的に就学前学年(年長さん)以上のお子さんを対象にさせていただいております。就学にあたって、もしくは就学後に困ったことが出てきた、読み書きのことで困難が生じてきたなどのことがありましたら、お気軽にご紹介ください。
小児神経内科外来は平日の午後に行っています。初診で直接受診される場合は、まず通常の小児科外来を受診していただき、ひと通りお話を伺った上で後日の小児神経内科外来の予約を取る流れになります。かかりつけの先生から紹介していただく場合には、地域連携室を通して小児神経内科外来の初診予約が可能です。 発達外来は金曜日の午後に行っています。外来診療に時間を要する分野(一人に30分~60分)ですので、診療枠はあまり多くありません。そのため、初診は週にお一人限りとさせていただいており、発達外来初診枠は金曜日13:00-14:00のみです。よろしくお願いいたします。発達外来での診療は初回が問診・診察→その後いくつかの検査→結果の説明と診断がでるまでに複数回の受診が必要です。
けいれん性疾患は小児では非常に多く、小児救急医療の代表的疾患でもあります。当科では年間1000件以上の脳波検査を行うなど、小児神経専門医、てんかん専門医が中心となって診療に励んでいます。近年は新規抗てんかん薬が相次いで認可・発売されており、これまで難治であった患者さんがより良い生活を送れるようになることが期待されています。難治てんかんについては、国内有数のてんかんセンターである「岡山大学病院てんかんセンター・小児神経科」と密に連携して診療を行っています。
緊急脳波検査、緊急MRI検査などを積極的に行い、脳炎・脳症の的確な診断と迅速な治療に努めております。低体温療法などの高度な集中治療管理が必要な場合に備えて小児ICU治療の経験が豊富な「岡山大学病院EICU」との連携体制を構築しています。
自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(学習障害)などの神経発達症(発達障害)については、就学前学年(年長さん)以上の年齢のお子さんを対象に外来を行っています。主に小児神経専門医・子どものこころ専門医が対応します。院内の言語聴覚士によるリハや、放課後等デイサービスと連携しながら家や学校での生活をサポートしています。また、不登校についてもお気軽にご相談ください(必ずしも発達に関する診断を付けるわけではありません)。
特に専門施設の少ない限局性学習症(学習障害・LD)については、客観的な検査・評価により困り事の神経学的基盤を理解し、本人にあった教材や学習の仕方の提案、ICT機器を利用した読み書きの代替手段の提案と活用推進を行っています。親の会や教育機関とも連携しICT機器を学校に導入するお手伝いもさせていただきます。現在かかりつけのクリニック・病院がある方でも、LDだけに関しての評価・支援にも対応しておりますのでお気軽にお問い合わせください。
年中さん以下で神経発達症が強く疑われるお子さんの場合には、長期的な視点に立った療育へのスムーズな連携が重要になりますので、療育機能の充実したクリニック・病院の受診をお勧めしています。(ご紹介いただいた場合は本人や家族の困り事について対応しつつ、専門施設につないでいきます)。
また、心身症や不登校についても相談を受けています。子どものこころ専門医を中心に対応していきます。
発達のおくれが疑われるお子さんの診療も行っています。ていねいな神経学的診察と標準的な発達検査によって評価し、症状に応じた基礎疾患の検索も行っていきます。
<発達外来の流れ> 発達外来は毎週金曜日午後です
①初診(かかりつけの先生からの紹介状がない場合には初診料がかかります)
・かかりつけの先生から地域連携室を通して初診予約(初診枠は13:00)
・当院の小児科一般外来を予約外で受診して、そこで発達外来初診を予約
・当院小児科に通院中の方は主治医からの院内紹介が可能です
初診は60分で、現在の困りごと、周産期歴、乳幼児期の発達歴などについてお話を聞かせていただきます。
親子手帳、園や学校の先生からのお手紙などを持ってきていただけるとスムーズです。
②心理検査(1-2回の受診が必要です)
・知能検査:就学前 WPPSI-3、小中学生IV、V
・自閉スペクトラム症の評価:PARS-TRなど
③発達外来再診
これまでの経過と心理検査の結果をもとに、現在の状態を評価して神経発達症の診断を行います。診断がつく場合でも、診断域にない場合でも、特性に合った支援の方法を一緒に考えていきます。困り感が強い場合には薬物療法についてもお話をします。当院には療育部門がないですが、児童発達支援や放課後デイサービス等と連携して暮らしやすい方法を探していきます。家でのお子さんへの接し方はなかなか本に書いてあるように上手にはできないものですが、これについてもCAREという子どもとの絆を深めるためのプログラムを準備中です。
④LDに関する評価
知能検査のスコアが平均域にもかかわらず学習に関する困りごとが強い場合には、読み、書きに関係する詳細な評価を行います。
・STRAW(読み、書きに関するスクリーニング)
・音読検査、URAWSS(読みに関する評価)
・WAVES(視覚認知と手の使い方に関する評価)
・(K-ABC)
⑤LDに関する支援
読み書きでとても困っていて、読字障害、書字障害と診断された場合には、音韻トレーニングをはじめとする継続したリハビリテーションや、最適なノートの使い方、聴覚法やカラーマスノートなどを活用した漢字の学習の仕方の相談、学習の支援などを行っています。また、学習へのICT機器の導入に積極的に取り組んでおり、読み上げ機能のあるデイジー教科書の使用だけでなく、タブレットを用いて板書を撮影してそこにメモを書いていくノートづくりなどについても実際にタブレットを触ってもらいながら学んでもらっており、具体的な方法を決めたうえで学校と連携して合理的配慮として教室への導入をお願いしています。
当院は総合周産期母子医療センターであるため、新生児神経疾患(低酸素性虚血性脳症、新生児発作、脳形成異常、先天性水頭症、神経筋疾患など)のお子さんたちもNICUに多く入院します。このようなお子さんたちの急性期の検査(脳波やMRI)や治療にチームの一員として関わりつつ、退院後のフォローアップや治療も担当しています。 また、低酸素性虚血性脳症の全国規模のフォローアップ研究(Baby Cooling Japan)の中心的施設の一つとして研究活動も行っています。
神経症状の原因として先天代謝異常症が隠れていることがあります。当科では、県内でも数少ない代謝異常症を専門とする小児科医が、基礎疾患の検索、専門的治療(薬物療法、酵素補充療法など)に関わっています。
当院は日本小児神経学会専門医研修の研修関連施設(研修認定施設:岡山大学病院小児神経科)です。てんかん外科手術等は他施設で経験する必要がありますが、当院では2名の小児神経専門医(井上拓志、竹内章人)の指導のもと幅広い分野の小児神経研修を受けることが可能です。特に小児神経救急、神経発達症、周産期神経学、先天性脳奇形、先天奇形症候群などの症例を多く経験することができます。また、新生児から小児までの脳波判読に関するトレーニングも充実しています。
全国学会・国際学会での学会発表、論文発表も積極的に行っており、疫学者のサポートのもと臨床研究の指導を受けることも可能です。年齢的には中堅の医師が多く、活気のある小児神経内科です。小児神経医療に興味を持つ若い先生方をお待ちしています。
当院では常勤のてんかん専門医2名が中心となっててんかん診療を行っており(小児神経内科:井上拓志、脳神経外科:近藤聡彦)、日本てんかん学会の臨床研修施設に認定されています。てんかん専門医の指導のもとで研修を受け、専門医を目指すことができます。
小児神経内科では、新生児期から青年期まで豊富な症例を経験し、それぞれの年齢層の自己終息性てんかんや難治てんかんの臨床的特徴や脳波所見を学ぶことができます。
また、てんかんの患者さんたちが小児期に直面する様々な悩みに多く接し、より良い助言や指導ができるようになるための十分な臨床経験を積むことができます。このほか、岡山大学病院のてんかんセンターを中心に地域のてんかん診療施設との交流もあり、定期的なカンファレンスなどを通じ、てんかん診療のアップデートや様々な考え方を学ぶことができます。
てんかん診療を学びたい先生がおられましたらサポートいたしますので、御相談ください。
当院は日本臨床神経生理学会の教育施設(脳波分野)に認定されており、脳波専門医が指導を行っています。当院での臨床研修を経て脳波専門医、または脳波専門技師を目指すことができます。 小児神経内科では年間1000件を超える脳波検査を行っており、新生児期から青年期まで幅広く脳波判読を学ぶことができます。様々なタイプのてんかんの脳波所見を学ぶことができますし、急性脳症などの神経救急やNICUにおける脳波モニタリングなども経験できます。聴診器やエコーを使うのと同じ感覚で脳波を使いこなせるようになることを目指しています。 脳波を学びたい先生や検査技師さんがおられましたらサポートいたしますので、御相談下さい。
小児神経学分野の研究についても取り組んでいます。
過去5年間の小児神経関連論文(小児科・新生児科との重複あり)
2018年-2022年
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Tsuda K, Shibasaki J, Isayama T, Takeuchi A, Mukai T, Sugiyama Y, Ioroi T, Takahashi A, Yutaka N, Iwata S, Nabetani M, Iwata O. Three-year outcome following neonatal encephalopathy in a high-survival cohort. Sci Rep. 2022 May 13;12(1):7945.
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